第126話

「同じ?どういうこと?」

「そのままの意味です。過去の後悔をずっと引きずっているところがそっくりで……」


 白銀しろかねさんは遠い場所を見つめるような目をすると、小さくため息をこぼした。


瑛斗えいとさんにとっての罪滅ぼしは、どういうものですか?」

「僕にとっては、困ってる人を助けることかな」


 その返事に深く頷いた彼女は、「やっぱり、そこは違うんですね」と作り笑顔を見せる。


「私にとっての罪滅ぼしは、幸せな人生を送っていることです」

「ように見せる?」

「はい。友達がたくさんいて、誰の目から見ても充実していると思われる。そんな人生を私は代わりに歩まなくてはならない」


 僕には彼女の言っている意味がわからなかった。けれど、これまで見てきた『白銀しろか 麗子れいこ』という人間と今の言葉とを繋ぎ合わせると、いくつか読み解ける部分もある。


「取り巻きを突き放せないのもそれが原因だったんだね」

「はい……。友達という枠から彼女らを除けば、本当の友達なんて一体何人いるか……」


 悲しみの色が何色に染まっているのか分かりそうなほど、深いため息をこぼす彼女。僕はその台詞に心当たりがあることに気がついた。


紅葉くれはも前に同じようなこと言ってたね」

「……今は東條とうじょうさんの話は聞きたくないです」

「彼女は自ら本当の友達以外を切り捨てたよ、白銀さんとは真逆だ」

「真逆だから聞きたくないんです!」


 僕の言葉に怒りをあらわにした白銀さんは、両手で机をバン!と叩くと、肩を上下させながらこちらを見つめる。

 いや、睨んでいると言った方がいいかもしれない。指先も微かに震えていた。


「初めて東條さんを見た日から、本心を口にできる彼女を羨ましいと思っていました」

「それでも紅葉は後悔してたよ。その本心のせいでひとりぼっちになって、本当に自分は正しいことをしたのかって」

「それでも羨ましいんです!私は私の思うように選べない。寂しい人間だと思わせてはいけないから……」


 何がそこまで彼女を『友達』や『幸せ』にこだわらせるのか、久しくこだわったことの無い僕には理解できない。

 けれど、普通の人がどうしてもそこを意識してしまうということは、周りを見て何となく理解はしていた。

 だが、白銀さんのそれは普通とは少し違う。奥の奥、深い部分に異常さを孕んでいるのだ。

 自分ではない誰かのために幸せになろうとしている。先程の彼女の言葉と表情は、僕にそんな印象を与えた。


「自分に無いものを持ってる。だから紅葉を嫌ってるの?」

「……え?」

「気付かないはずがないでしょ。紅葉なんて隠す気もあまりないみたいだったし」

「き、嫌ってなんて……」

「紅葉と白銀さんは、何らかの理由で仲良しの振りをしている。それも僕の前でだけ」

「っ……」


 白銀さんの反応を見て確信した、図星だと。理由までは分からないけれど、きっとそうすることで2人が得する何かがあるのだろう。


「言ったでしょ、僕の罪滅ぼしは困ってる人を助けることだって」

「……」

「白銀さんの悩みや苦しみに関係する嘘は、全部見破る自信があるよ」

「ふふっ、なら嘘なんてついても無駄なんですね……」

「うん。だから、全部話した方がいいよ。そうじゃないと、僕は余計なことまで知ろうとしちゃうから」


『教えて。一体、誰のために無理をしてるの?』


 真っ直ぐにぶつけられたのは、純粋かつ単純な質問。それは白銀さんが秘めていたものの核心をついていたようで、彼女は少し自らの心と相談する時間を設けると、やがて顔を上げて僕の目を見た。


「私は……姉の白銀シロカネ 麗子レイコのために、幸せにならなくてはならないんです……!」

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