第124話
2年前のある日、
気が弱く無口だった彼女は震えたまま何も言えずにいたが、
『誰か、ついてくる』
それがストーカー被害にあった最初の日のことだった。
それから一週間に一度、3日に1度、やがて毎日のように後をつけられるようになり、家から出られないほど恐怖を刻まれていく。
このままでは
そして彼女は知ってしまった。
話を聞いてみれば、目的は
それが許せなかった
『これをばらまかれたくなければ、言うことを聞け』
彼女が言われたのは、録音したものを消すことと、金を用意すること。
どちらもその場では了承したものの、
しかし、帰宅して
自分と
ならば、お金を用意しなくてはならない。毎月決められた額を払うには、働かなくてはならなかった。
以前、スカウトされて断ったアイドル事務所があったことを思い出した
……が、よく考えてみれば自分がお金を払っても、男たちが言うことを聞いてくれる保証はない。
もしも、それでも
そこで
ストーカーによって精神が限界を迎えていた
それなら、好きなだけ怒りをぶつけられる自分が偽の悪役になることで、すべてを知られないまま終わらせようと決めたのだ。
スカウトした
社長の一声によって、
「アイドルは元々ストーカーにあいやすいから、事務所の人は対策に慣れてた。ライブの時は送り迎えしてくれるし、1年前からは普段の通学路でノエルが気付かない場所から見守ってくれてる」
「どうして私のためにそこまで……」
「ノエルが頑張ったから、アイドルとしてそれだけする価値があるって認めて貰えたんだよ」
イヴが「偉かったね」と優しく頭を撫でると、ノエルの目からぽたぽたと水の粒がこぼれ落ちた。
ずっと恨んできたイヴが、本当は自分の一番の味方だったことを知れたからだろうか。それとも、何も知らずに恨むだけだった自分を悔やんでのことだろうか。
「でも、どうしてあの日から言葉を発さなくなったの?」
「初めの頃、ノエルの給料から少しだけ貰ってたんだけど、要求された金額には足りなかったの」
「もしかして……」
「うん、割のいい夜のバイトを週4でやってた」
「……」
イヴが言うには、深夜から朝方までだったからお酒の臭いが残ってしまって、バレないように誰とも話さないことにしていたらしい。
1年前からは事務所が足りない分を出してくれるようになってバイトもやめたものの、自分が
「イヴ、気づいてあげられなくてごめんなさい……」
流れる涙の意味は本人さえ理解していないのかもしれない。けれど、今のノエルにとっての恨む対象が変わったことは、誰の目から見ても明らかだった。
「事務所の人が警察に働きかけてくれたおかげで、元彼が捕まるのも時間の問題だって……」
「イヴに酷いことをしたやつなんて、ずっと牢屋に入ってればいいよ!」
「ノエル……」
抱き合うノエルとイヴに背を向け、
ここから先は2人だけの問題で、自分が干渉することでは無い。そういう考えの元の行動だ。
彼は玄関で靴を履くと、「お邪魔しました」とだけ呟いて、自宅へと足を向けた。
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後日聞いた話だけど、ノエルを悩ませていたストーカーと元彼は、別の女の子に対する罪で捕まったらしい。
まあ、世間的にはその女の子と、ノエルの妹が被害者だったということになってるみたいだけどね。
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