第121話
今日、テストが返された。結果は全教科問題なし。
「テストが終わったからって、遊んでばかりいたらダメですよ〜?」
テストのことも大事ではあったけれど、今の僕にはもっと大事なことがあった。それは―――――。
「ノエル、今日の放課後は暇?」
「あっ、
そして、彼女の口にした『恋愛感情』というものが、一体どういうものなのかを知ること。
紅葉には一人の帰路という寂しい時間を与えることになってしまったけれど、そこは後で埋め合わせするからと納得してもらった。
「教室まで来て、どうしたの?」
「一緒に帰ろうって誘いに来た。あと、家に遊びに行こうかと」
「多分、後ろの方が本命かな?」
「よくわかったね」
関心する僕にノエルは胸を張って、「めいたんてい!」とドヤ顔を見せる。この人、ちょっと面白いかもしれない。
「今日はレッスンもないし、暇するところだったんだよね!だから、いいよ♪」
そう答えてくれる彼女に礼を言うと、「帰る準備するから少し待ってて」とアイドルスマイルを向けられた。
僕は了解の意を示してから廊下に出る。それから数分後、「おまたせ!」と小走りで出てきたノエルと並んで歩き出した。
「さすがアイドル、廊下を歩くだけで視線を感じるよ」
「そんなことないよ〜♪」
ノエルは謙遜するけど、本当に視線を感じる。それがノエルに向けられるものならまだいいんだけれど、羨ましそうなものや妬みを含んだものが僕の方へ飛んでくることもあるのには困るんだよね。
人から見られるのは慣れてないからさ。
「このまま家に直行でいいの?」
「あ、じゃあ、食堂に寄らせてもらおうかな」
「オッケー♪」
そんな感じで食堂に足を運んだ僕は、売店の前で立ち止まる。
そして、商品棚からりんごジュースといちごミルクを取り出すと、後者をノエルへと手渡した。
「遊びに行かせてもらうお礼にこれ。僕じゃ買えないから、お金を渡すことにはなるけど」
「えっ、大丈夫だよ!私、喉乾いてないから!」
「遠慮しないで、ほら」
困ったように眉を八の字にする彼女へ、「紅葉の好物だからきっと美味しいよ」と言っていちごミルク分の代金を渡す。やっぱり、家にお邪魔させてもらうんだから、何かしらしておかないとね。
しかし、じっと手に乗せられたお金を見つめていたノエルは、ブンブンとグビを横に振ると、「やっぱり大丈夫!」とお金を返されてしまった。
「遠慮しなくてもいいのに」
「えっと、私一応アイドルだから!こうやって買ってもらったりするのはダメなんだよ!」
「そっか、なら仕方ないね」
僕はそう言って頷くと、いちごミルクに「ごめんね」と言いながらスケルトンな冷蔵庫へと返した。あまり良くないことだけど、どうせF級の僕じゃ買えないし。
「これください」
「はいよ!150円ね!」
「あ、値上がりしてる」
お小遣いのことも考えて、2日に1本にしないといけなくなるかもしれないなぁ。
そんなことを思いながら、僕はりんごジュース片手にノエルと食堂を後にする。
すぐに飲みきって空になった箱は校門近くのゴミ箱に捨て、りんごパワーが十分補充された満足感たっぷりの表情で学校を出た。
やっぱり、一日一本は飲まないとやってけないね。今度、学園長に値下げ交渉でもしておこうかな。
それにしても、もしかすると僕の予想は当たっているのかもしれない。
さっきのいちごオレを断る様子を見て、僕は疑惑が少しづつ確信に近付いてきているような感覚を覚えていた。
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