第119話
あれから1時間ほど勉強して、
あまり遅くまでいさせてもらうのも悪いと言うから、こちらはあまり気にしないと言ったけれど、妹のこともあるからと帰ってしまった。
「また学校で」
「……」コク
「またね〜!」
2人の背中が角を曲がって見えなくなってしまうまで手を振り、イヴと一緒に家の中へと戻る。
ここからは2人で勉強を再開……と行きたいところだけど、まずはイヴに聞かないといけないことがある。
私は彼女をリビングのソファーへと座らせると、机を挟んで向かい合うように腰かけて足を組む。
「……どうして教えなかったの?」
「……?」
「
「……」コク
「接近してるなら、教えてくれてもいいんじゃないかな?」
「……」フリフリ
イヴは首を横に振ると、胸の前で小さくバツを作った。つまり、私が言っている意味で近付いた訳では無いという意味だろう。
「彼と本当に友達になりたいの?」
「……」コクコク
「無理だよ、イヴは喋れないんだから。……いや、違うね」
私は小さくため息をつくと、イヴの目を見つめながら恨めしさを込めて言った。
「イヴは自分から喋らない道を選んだんだから」
「……」プイッ
「顔を背けても無駄。私にアイドルという枷を押し付けたのはイヴなんだよ?」
「……」
普段は仲のいい振りをしてあげているけど、私はこの妹……いや、姉が大嫌いだ。いつも自分勝手に行動して、その結果生じたことを人に押し付けて知らんぷり。
言葉を発さないのだって、私に面倒なことを押し付ける手段に過ぎない。
「ねぇ、私の前では話してもいいんじゃないの?」
「……」フリフリ
「徹底か。ボロでも出してくれれば、私も逃げ出せるんだけどなぁ……」
「……」
「ん?勝手にやめればいいって?それは無理だよ」
私達は一卵性の双子。顔もそっくりで、本来は髪の色も同じ。私が金色に染めているだけで。
だから、見た目を誤魔化すことは出来る。けれど、私はイヴのように無表情を貫くことは出来ない。
何も喋らないなんて異常な真似ができるほど、私は器用じゃないから……。
「イヴがアイドル試験に申し込んだのに、面倒になって私に押付けた日のこと、忘れないから……」
試験だけと言うから代わりに合格してあげたのに、事務所の人に金髪の方が似合うと言われて染めさせられ、母の目から見ても私とアイツとの区別を付けさせられたあの日。
アイツが全く言葉を発さなくなり、無表情の仮面を被ることで私との違いをはっきりとさせたあの日。
私から『イヴ』という名前を奪ったあの日。
全部同じ日だ。私はあの日が恨めしい。あの時の自分が騙されなければ、やりたくもないアイドルをやらなくて済んだはずなのに……。
やめればいいなんて言われるかもしれないけれど、アイツが交わした契約には『違約金の発生』というものがあったらしい。
最低でも3年は事務所に所属していないといけないのだ。
アイツは私を『ノエル』として拘束するためだけに、無口で無表情の『イヴ』という存在を作り出したのである。
「本当に器用過ぎて気持ち悪いくらいだよ」
「……♪」
「っ……3年が過ぎたら返してくれるんだよね?」
「……」コク
なら、今年さえ乗り切れば私はアイドルを辞められる。メンバーのみんなとは仲良くしてるけど、やっぱり恋愛禁止のルールが苦しくて仕方がない。
そのルールのせいで私は、あの時付き合ってた人と別れることになったんだから……。
「……」
「な、なに?」
「……」
『イヴ』は私の手を取ると、人差し指でそこに文字を
『SS』
たった2文字だけ。しかし、そこに込められている意味はとてつもなく大きくて深い。
「……取れってこと?」
「……」コク
「うん、できたらやってみる」
「……♪」
その無表情ながら喜んでいることが伝わってくる顔を見て、私は背筋がぞくりとした。
どれほど器用なら、こんな真似ができるのだろうか。
どれほどずる賢ければ、私の3年間の努力を自分のものにしてしまう計画を思いつくというのだろうか。
「なんのために頑張ってるんだろ……」
私は小さくため息をこぼすと、ソファーから立ち上がって二階の自室へと向かった。
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