第118話

 勉強が一段落して、一度休憩をしようということになった。

 紅葉くれはのお姉さんの教え方が上手いおかげで、数学の分からなかったところはほとんど解決したし、なんとか試験までには間に合いそうだ。

 ただ、イヴにはお姉さんも手を焼いているようで、勉強が得意じゃない上に反応も薄いため、理解してくれたのかどうかもよく分からないから。


「そう言えば、イヴのプロフィールってみたこと無かったよね」

「確かにそうね。ランクは低かったんでしょ?」

「そうだけど……あれ?」


 黄冬樹きふゆぎ イヴと書かれた部分をタップすると、パッと無表情の写真が現れた。

 どうやら彼女はE級らしい。僕よりひとつ上だったんだね。


「あれ、プロフィールを隠せるのってA級以上じゃなかったっけ?」

「そうだけど……隠れてるわね」


 見てみれば、彼女のステータス値は余すことなく全て隠されている。イヴ自身には隠すことは出来ないはずだし、僕と同じく学園長が隠したのかな。


「やっぱり不思議な子だわ」

「分からないことが多いからね」


 お姉さんの膝の上でモグモグとクッキーを食べているイヴを眺めながら、僕らは揃って首を傾げるのだった。


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 翌日、僕らはまた集まって勉強をすることに。場所はイヴの家に決まった。

 今日はお姉さんも用事があるらしく、3人だけの勉強になるはずだったのだけれど―――――――。


「あれ?イヴのお友達かな?いらっしゃい♪」


 キラキラと光を反射する金髪少女、ノエルも家にいたのだ。

 イヴが言うには、と言うか反応から察するには、今日はノエルも他の人と勉強するために出かけていたはず。

 しかし、その用事が直前で無くなってしまい、急遽暇ができてしまったんだとか。


「私驚いちゃった!イヴにいつの間にかお友達ができてるんだから!」

「……」コク

「まさか男の子のお友達もいるなんてね〜♪」


 ニヤニヤとしながら僕を見てくるから、「狭間はざま 瑛斗えいとって言うんだ」と自己紹介したら、「へぇ、あなたが転校生の……」と意味深な目を向けられてしまった。


「あ、私は――――――――」

東條とうじょう 紅葉くれはちゃんだよね!知ってるよ、同じS級だもん!」

「S級……そうよね、アイドルだもの」


 僕が「紅葉も知名度あったんだね」と脇腹を小突いたら、無言で5倍返しされてしまった。これ、結構痛いよ。


「あ、お茶も出さずに失礼だったよね!すぐに持ってくるよ!」

「僕も手伝う」

「お客さんにそんなことさせられないし……」

「いいから、任せて」

「あ、ありがとう……」


 ノエルと一緒にキッチンへ向かい、「りんごジュースはある?」「あるよ♪」なんてやり取りをしながら人数分のコップを用意した。

 ノエルがりんごジュースをついでくれているのを眺めていると、ふと以前からの疑問が浮かんでくる。今こそ聞けるチャンスかもしれない。


「ノエル、さん?」

「ノエルでいいよ。イヴのお友達だし!」

「じゃあノエル、ひとつ聞いてもいい?」

「何かな?」

「イヴって昔から無口なの?」

「っ……」


 僕が質問を投げかけた瞬間、それまで笑顔だった彼女の表情が無へと変わった。

 髪色こそ違えど、同じく色白の肌に青い瞳。イヴと見間違えそうなほどそっくりだ。


「聞いちゃいけない事だった?」

「……あ、いやいや!ちょっと考え事しちゃってただけだよ♪」


 ノエルはブンブンと首を横に振ると、ニコッと笑って「昔はイヴもよく笑ってたよ」と教えてくれる。


「イヴはね、私との差を気にしてるんだと思う。見た目は変わらないのに、自分の方が不器用だから」

「やっぱりそうだったんだね」

「でも、瑛斗くんが友達でいてくれたら、あの子もまた笑えると思うの」


 彼女が「よろしく頼むね?」と不安そうに聞いてくるから、僕は「もちろん」と答えてジュースの入ったコップを持った。


「あ、頼むってそれのことじゃないからね?」

「わかってるよ、イヴのことは僕が笑顔にする」

「ふふっ、なんだかプロポーズみたい♪」

「それもいいかもね」

「えっ?!」

「冗談だよ」


 よほど驚かせてしまったのか、「もぉ、意地悪だな〜!」と肩をペシペシと叩かれた。イヴと同じで撫でるくらいの力だったけど。

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