第111話
庭先で胸がどうこう騒がれるのも困るので、気は進まなかったけれど、とりあえず家に上げることにした。
僕が「どうぞ」とリビングのイスへ手招きしても、「私に何かする気じゃ……」と警戒してなかなか入ってこないから、
その奈々も奈々で、「……胸、見てたんだ?」と
「コーヒーと紅茶、どっちが好き?」
「なにか混ぜたりするんじゃないですか?」
「そりゃ、混ぜるよ」
砂糖とミルクをね。僕、そのままじゃどっちも飲めないし。もしかして、この人は紅葉と同じで何も入れない方が好きなのかな?
「……結構です、危なそうなので」
「そっか、なら仕方ないね」
いらないと言うなら無理に飲ませることも無いだろう。きっと、人の家でコップを使わせてもらうことに遠慮しちゃうタイプなんだ。
そう自分を納得させて、自分の分のりんごジュースを注いで客人の斜め前に座る。目の前に座るとまた警戒されそうだから、そこはまた奈々の出番だ。
「ところで、どちら様ですか?」
「そういうあなたは……
「ご存知でしたか。そう、私こそ
奈々がどこか誇らしげに言って見せるも、客人は不機嫌そうな表情のまま彼女を見つめる。が、やがて視線をずらすと、僕の方を
「私が逢いに来たのは、そのお兄さんの方です」
「僕?」
「お兄ちゃん……やっぱりこの人に何かしたの?まさか、愛人とか?!」
「違うよ。違うから、肩掴んで背もたれにぶつけるのはやめて」
幾分かクッション性がある背もたれとは言え、何度もぶつけられるとさすがに痛い。
数分かけて奈々を落ち着かせると、「お見苦しいところをごめんなさい」と謝って座り直す。あれ、さっきよりも目が怖くなってない?
「その仲の良さ……普通の兄妹とは思えませんね。やはり妹にまで手を出しているのでは……」
「あれ、独り言?」
「先生では飽き足らず、血の繋がりがある相手にまで……」
「あのー、聞こえてますかー?」
「これは許せません!風紀委員として許しておく訳には……!」
「…………」
どうやら、僕の声が届いていないらしい。何やら意味不明なことを呟いた挙句、1人で納得している。
頭の中にイマジナリーフレンドでもいるのか、それとも独り言が大好きな人なのかは分からないけれど、目の前でされると心配になっちゃうよ。
「お兄ちゃん、もしかしてこの人心が病んでるんじゃ?」
「ありえるね。でも、ク○リって可能性もあるよ」
「えっ、家に上げて大丈夫だったのかな。身の危険を感じるんだけど……」
「大丈夫、僕は奈々の身体能力を信じてるから」
「それ結局私だよりだよね?!」
奈々と2人で話し合っていると、「何をコソコソしているのですか!」と机バンバンされてしまった。威圧感があるからやめて欲しい。
「それで……あなたはどちら様?」
「すみません、自己紹介が遅れました。私は
「つゆくさ、りんね……」
奈々は名乗られた名前を繰り返して口に出すと、何かを思い出したように「あっ!」と声を上げた。
「この人、やたら校則に厳しいって噂の風紀委員だよ!お兄ちゃんと同じ学年だったはず!」
「……まるで私が悪者みたいな言い草ですね?」
僕が「露草だけに言い草?」と呟くと、キッ!と睨まれてしまった。どうやら滑ってしまったらしい。
「そんな風紀委員様が私のお兄ちゃんになんの御用ですか?」
「私がここに来た理由は単純明快、お兄さんが不純異性交友をした疑いがあるからです」
「……私の兄が?ありえません」
「ふっ、信頼しているのですね。ですが、こちらには証拠もありますよ」
凜音はそう言うと、僕らの前に学園デバイスを差し出した。どうやら、その証拠たる動画を見せてくれるらしい。
映っている場所は――――――――――職員室?
「私も鬼ではありません。思い返す猶予くらいはあげましょう。狭間 瑛斗、あなたが転校してきてすぐの頃、職員室での出来事です」
彼女はそう言うと、再生ボタンを押した。カメラが捉えているのは先生の使っている机や、積み上げられた教科書、その他資料などで、人の姿は遠くに小さくチラッと映っているだけ。
それでも、その声を聞けば誰なのかは何とか理解できた。
『んっ……そこですそこ……あっ』
『こんなこと、妹にしかしたことないんですよね。痛かったりしませんか?』
『んんっ……大丈夫です、すごく上手ですよ〜気持ちいいです♪』
――――――――うん、僕と
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