第110話
「
僕がそう言うのも、今日の奈々は人前だと言うのに甘えすぎだったから。
普通にブラコンな面を見せていたし、『お兄ちゃん好き好きオーラ』を存分に発していた。
あれでは、学校中に『S級なのにブラコンな女子がいる』と噂が広まるのは時間の問題だろう。
しかし、当の本人である彼女は、なんのこっちゃと平然とした顔をしていた。
「お兄ちゃんの手を握ってもいいのは自分だけ、みたいなこと言ってたでしょ?」
「ああ!そういうこと!大丈夫大丈夫!友達にはもうバレてたみたいだからね」
「既にボロ出してたってこと?」
「うん。なるべく意識はしてたんだけどね……お兄ちゃんの話になると、やたら熱弁してるって言われちゃった」
「僕の話って、どんなこと話すの?」
「私の友達、お兄ちゃんとか弟がいる人が多いから、何歳まで一緒にお風呂入ってただとか、同じ布団で寝れるか……みたいな感じ!」
「一応聞いておくけど、なんて答えたの?」
奈々は僕の言葉を聞いて嬉しそうに微笑むと、グッと右手の親指を立てながら
「もちろん今も入ってるって言ったよ♪」
「――――――はぁ」
それはバレて当然だよね。別に悪いことをしている訳でもないからいいけれど、奈々がそれで変な風に思われないかが心配だなぁ。
「みんな驚いてた!今日も何人か見に来てたんじゃないかな?」
「僕の顔までバレてるってことかぁ。これが悪い方に転ばなければいいけど」
「私はむしろ、お兄ちゃんとそういう関係って思われた方が嬉しいよ?」
「そういう関係って、どういう関係?」
「えっ……それは、その……」
奈々が急にオロオロし始めた。自分で言ったのに答えられないってことは、さては知ったかぶりしたのかな?ダメだよ、嘘はいつかバレるんだから。
「ところで、他には何か言わなかった?」
「あ、そういえば……」
その時奈々が口にした言葉で、僕はその日の彼女のおかずをひとつ取り上げることを決めた。
いくらなんでも、『自分の着て汗をかいた体操服を、その日にお兄ちゃんが着て体育した』なんてこと、人に話したりしないよ。
頼まれて貸してあげただけなのに、それではまるで僕が好きで着たみたいに聞こえるもん。
我が妹には、言っていいことと悪いことの区別をつけるための教育をしないといけないらしい。
明日、ド〇キに行ってビリビリグッズを買ってこよう。体に覚えさせてあげるのが一番だからね。
「それからもうひとつ聞いてもいい?」
「ファーストキスはいつか?安心して、お兄ちゃんのために置いてあるよ♪」
「そりゃよかったね。でも、子供の時に僕としたって言ってなかったっけ?」
「あれはチューだよ、キスとは別物!」
「そういうものなの?」
何が違うのか分からないけど、気持ちの問題なのかな。でも、奈々が悪い男に捕まっていないみたいで安心したよ。
「本当に聞きたいのはそれじゃなくて――――――」
そう言いながら、僕はリビングの窓から見える庭を指差した。奈々はその方向に目を向けると、「……え」と驚いたように短く声を発する。そこには。
「その人、誰か知ってる?」
縁側に腰掛ける知らない女の子の後ろ姿があった。
僕らの声が聞こえたのかもしれない。彼女は振り返ってこちらの存在に気がつくと、スっと立ち上がって窓をコンコンと叩いた。
背は奈々と同じくらいだから、僕よりかはだいぶ小さい。
制服は僕らと同じ、
「―――――――風紀委員?」
窓の側まで寄っていき、ケースの向こうにいる動物を見るように覗き込んでみると、その文字がはっきりと見えた。
風紀委員の人が一体どうしてこんな所にいるのだろうか。そう頭を悩ませていると、窓の向こうの彼女はさらに激しく窓を叩いた。
仕方ない、開けてみてセールスだったらはっきり断ろう。
「どちら様ですか?」
「い、今!私の胸を見てましたよね?!」
「――――――――はい?」
もしかすると、セールスよりも厄介な客かもしれない。
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