第106話
「……あらあら」
「…………」
4度目のオープンフェイズ、
なぜなら、紅葉の出したカードは交換すらしていない『白紙』だったから。
「おかしなことをしなければ、あなたもまだ勝ち上がれたというのに。自分が何をしているのか、分からなくなってしまったんですか?」
「……出すカードを間違えたのよ」
「そうだったんですか、それなら仕方ないですよね♪」
ニコニコ笑顔でそう言いつつ、麗子は紅葉が『実力での敗北を恐れて、凡ミスで誤魔化そうとしている』のだと悟った。
勝負の世界においてこういう行為はタブーだが、今の麗子にとってこれほどラッキーなことは無い。
引き分けに持ち込むつもりが、紅葉が『白紙カード』を捨てたことによって確実に勝てるようになったのだから。
【
<<手札>>
・『チョキ』
・『パー』
【
<<手札>>
・『チョキ』
・『白紙カード』
「次に私が出すカードはもう決まっています」
「私もよ」
2人は互いに頷き、麗子がカードをセットしたところで、紅葉は何かを思い出したように「待って」と声を上げた。
「私はきっとここで負けるわ。せっかくだから使っておいてもいいかしら、『有利権』」
「あら、負けを認めるんですね。なら、リタイアしてもいいんですよ?」
「それはしないわよ、最後まで戦わせて」
麗子は紅葉の言葉に小さくため息をつくと、「仕方ありませんね」と盤上に置いたカードから手を離す。
「質問よ、『次のターン、あなたは白紙カードを交換する?』」
「分かり切ったことを聞くんですね。答えは『ノー』、次に私が出すのは絶対に負けない『チョキ』です」
「……そう、それが聞ければ十分よ」
紅葉が満足してカードをセットすると、すぐさまオープンフェイズに移る。結果は当たり前のように『チョキ』と『チョキ』で引き分け。
最終ターンで手札に残っているのは、紅葉が『パー』、麗子が『白紙カード』。勝利数は麗子が1回分リードしている状態だ。
紅葉が白紙カードをそのまま出したことによって、確実に最後の手札が『パー』であることを麗子は知っている。
つまり、もう彼女が負けることはありえない状況になったということだ。
「次に『チョキ』を出せば私の勝ち。それが明らかですから、6ターン目をする意味もないですよね?」
麗子がそう言って
「このカードでは、まだ勝利が確定では無いということですか」
確かに、白紙カードのままでは敗北してしまう。実際に交換してからでないと、コールド勝ちにすることは不可能というのは、ある意味間違っていない。
だから、麗子は素直にその判断に従い、『白紙カード』を机の中の予備カードと交換しようと手を伸ばした。
「これで私の勝ち。やはり無駄な時間でしたね」
麗子は白紙カードの代わりに手に取った『チョキ』を紅葉の前でヒラヒラと揺らして見せる。これでジャンケンにおいて麗子の勝利が確定した。
しかし、その勝ち誇った顔を見て、紅葉は吹き出すように笑い声を漏らす。
「……ふふっ、そうでもないわよ?」
そう口にした紅葉は、盤上に叩きつけるように『パー』のカードを出してイスから立ち上がる。
「あなたのその顔を見られただけでも、有意義な時間だったわ。だって、今からその憎たらしい笑顔を崩せるんだから」
「な、何を言って……」
困惑する麗子を前に、紅葉は「はっきりさせましょう」と微笑んで審判役である瑛斗に「勝者はどちらかしら」と聞く。
その言葉の意図を理解した彼は、一度麗子の方へ視線を向けたものの、すぐに紅葉の方へと向き直って、観客にも聞こえるように告げた。
「勝ったのは紅葉だよ」
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