第102話

春愁しゅんしゅう式ジャンケン(学園長命名)』


―――――――――ルール説明―――――――――


・勝負は1対1のトーナメント形式で行われる


・両者は6枚のカードで構成される同じ山札を所持してゲームを開始する



<<山札の内容>>


・『グー』の描かれたカード

・『チョキ』の描かれたカード

・『パー』の描かれたカード

・『無敵カード』

・『地雷カード』

・『白紙カード』


               各1枚 計6枚



・先攻後攻は無し。両者同フェイズでカードを指定の位置に伏せて置く (セットフェイズ)


・両者がカードをセットし終えた後、セットしたカードを互いに公開する(オープンフェイズ)



【カードの強さ】


・『グー』『チョキ』『パー』の3種は通常のジャンケンと同じ勝敗になる


・『無敵カード』は『グー』『チョキ』『パー』の全てに勝利するが、『無敵カード』同士ではあいことなる

 また、『地雷カード』にのみ敗北する


・『地雷カード』は『グー』『チョキ』『パー』の全てに敗北するが、無敵に勝つことの出来る唯一のカードである


・『白紙カード』は『グー』『チョキ』『パー』のいずれかに変化させて使用する。対戦台の下に交換用の『グー』『チョキ』『パー』が入っているので、任意のタイミングで1枚と引き換えて手札に加えること

 なお、1度『白紙カード』を他のカードと交換した場合、他種のカードとの交換又は白紙カードへのリセットは不可


・6度目のオープンフェイズ終了後、もしくは5度目のオープンフェイズ終了後に残っているカードでの勝敗が確定している場合、勝利数の多い方が勝者となる

 もしも勝利数が同じであった場合、両者共に勝者とする

 ただし、6度のジャンケン全てであいこであった場合のみ、両者共に敗北とする


・なお、相手の手札を勝手に覗いたり、『白紙カード』の交換回数をオーバーするなど、ルール違反が発覚した場合は、勝利数に関わらずポイントは与えられない


―――――――――――――――――――――――

「質問してもいいですか?」


 白銀しろかねさんが手を挙げ、紅葉くれはが「いいわよ」と頷く。


「あいこの場合のポイントはどうなるのですか?」

「その場合は両者ゼロポイントよ」

「それが『両者共に敗北』へ繋がるのですね」

「そうよ。1回戦で片方の試合で両者が敗北した場合、もう一方の試合における勝者が1位、敗者が2位、残り2人が3位となるわ」


 紅葉は口にした内容をホワイトボードへと書き込んでいく。これならゲーム途中でもルールを忘れる心配はないね。


「もう質問はないわね?じゃあ、早速ラストゲームを始めるわよ」


 紅葉がそう言ってホワイトボードの位置をちょうどグラウンドの中央に移動させると、どこからともなく現れた学園長の秘書さんが対戦用の机を運んできてくれた。

 今度のは腕ずも――――――――じゃなくて、アームレスリング対決の時の細長いタイプのものとは違って、円卓のような安定感のあるもの。

 机上には『set area』と書かれた四角い部分、盤の裏側には白紙カードを交換する瞬間を悟られないようにするための空間が作られたりしている。

 おそらく、カードと同様にこのゲームのためだけに作られたのだろう。

 机自体にスライド式のイスが取り付けてあるところを見るに、かなりお値段はしたと思う。さすが学園長、太っ腹だね。


「このゲームは当たり前だけれど、全員が初めてプレイするわよね。先にプレイする2人と後にプレイする2人で知識の差が出ると不公平だから、4人全員が同時にゲームを行うことにしているわ」


 紅葉がそう言うと、よろよろとよろけながら現れた女性が、もう一台の机を運びながら姿を現す。

 彼女は額に汗を滲ませながら、ようやく秘書さんの指した場所に設置し終えると、あからさまに深いため息をついた。あれ、この剣道が上手そうな人、どこかで見たことがあるような――――――あっ。


「どうして私がこんなことを……」

「思い出した、文科省から来た結衣ゆいさんだ」

「ん?ああ、あの時の……」


 昨日、学園長室で会ったばかりなのに、もうすっかりと忘れてしまっていた。相変わらずキリッとした目をしてはいるが、雑用をさせられたせいか髪が少しだけ乱れている。


「どうして結衣さんが机を運んできたんですか?」

「……そこの学園長に命令されたんだ。少しばかり雑用してくれれば、大人しく聞かれたことに答えるからと」

「大人気ないですね」

「全くだな」


 結衣さんはポケットから取り出したハンカチで汗を拭うと、短く息を吐いてから学園長の方へと視線を向ける。


「この机は経費で用意されたのか?」

「そんなわけないよ。あくまで可愛い生徒のために私情で手を貸しただけだからね。私の実費だよ」

「……それも問題ではあるが、私が口を出すようなことではないな。では、学園長室で待たせてもらう」

「シャワーでも浴びておくかい?奥の部屋にあるけど」

「いいや、遠慮しておこう。嫌な匂いがする」

「それは今の君じゃないかな?汗の匂いがスーツについてしまうよ」

「…………やはりその手には乗らない」


 結衣さんはくるりと背中を向けると、足早にグラウンドを去ってしまった。その背中を見つめていた学園長は、「相変わらずお堅いねぇ」と小さく笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る