第97話
5本勝負3本目終了後途中結果
1位
4位
「どうして私が東條さんよりも下なんですか?!」
「紅葉の方が良かったと思ったからね」
「ボディタッチが必要ってことですか?なら、私のどこでも触ってもらっていいですよ!」
「白銀さん、目が怖いよ」
「っ……私のお世話が東條さんに負けるなんて……ありえないです……!」
白銀さんはそう言い残すと、どこかへと走り去ってしまった。あの方向はおそらくトイレだろう。
「あれは相当落ち込んでるわね」
「紅葉にもそう見えたんだ?」
「ええ。私のことを甘く見てるからこうなるのよ」
「まあ、紅葉のは譲歩しての勝ちだけどね」
「……そういうことは本人には言わないものよ」
確かに、言われて気持ちのいいものでもないもんね。僕の中では、白銀さんのお世話と紅葉のお世話は同じくらいだと思ったんだけれど、体を張ってくれたという意味で紅葉を勝ちにしたのだ。
まあ、頬を触らせてくれる事がお世話になるのかという疑問は、この際置いておくことにしよう。
「奈々も落ち込んでるね」
「あれは仕方ないわよ。だって、そもそもお世話されちゃってたんだもの」
「僕にも非があるからちょっと心が痛いよ。紅葉、代わりに慰めてきてあげてくれない?」
「自分で行きなさいよ」
「最下位にした本人が何言っても、余計に傷つけるだけだよ」
「……それでも嫌よ。敵に塩を送っても得がないもの」
紅葉の言う通りではあるけれど、落ち込む妹のことを放置して次の勝負に移ることは、兄として心苦しい。
紅葉の目的は奈々に勝つことだから、僕の頼みが聞けない気持ちも分かる。というか、僕がその立場なら同じように答えると思う。
そうは言っても、全員が万全でなければ、観客だって続行を許してくれないだろうし――――――。
「今度、またミルクレープ作ってあげるからさ」
「太るから却下」
「一緒に遊びに行ってあげるから」
「別に行きたくないから却下」
「抱っこしてあげ―――――――」
「子供扱いしないでもらえる?! 却下よ却下!」
ここまで断られると、僕も参っちゃうなぁ。仕方ない、ここは少し卑怯ではあるけれど、奥の手を使うしかないみたいだね。
「紅葉」
「……何よ」
「今紅葉が奈々に勝ったとして、本当に喜べるの?」
「当たり前じゃない。目の前で踊ってやるわよ」
「あの状態の奈々に勝って、周りはどっちの味方をすると思う?」
僕の言葉に、ちらりと奈々を見た紅葉は、何かに気がついたような表情をしてから俯いた。
「……あっち」
「うん、観客達も噂を聞いた人たちも、紅葉を『弱いものいじめした奴だ』って言うと思うよ」
「でも、どうせ私の評価なんて、元々地の底についてるようなものでしょう?」
「妹をいじめたって言われてる人と、僕が仲良くしていられると思う?」
「っ……」
例え、本当にそんな噂が流れたとしても、僕は紅葉から離れたいとは思わない。
けれど、奈々をいじめた人と仲良くしてる兄と言われるのは、やっぱり厳しいものがあることは事実だ。
僕だって感情があるから、いずれ紅葉を見捨ててしまうかもしれない。これはそうならないための警告でもある。
「僕は紅葉のそばにいたいよ。だから、紅葉からも歩み寄って欲しい」
少し間を置いてから「出来る?」と聞くと、彼女は少し悩んだ後、小さく頷いて立ち上がってくれた。
その足が向かう先にはもちろん奈々が居て、紅葉は彼女の手を取って無理矢理引っ張ると、グラウンドの端にある木の裏へと消えていった。
きっと、誰かを気遣う姿を見られるのが照れ臭いんだね。
5本勝負4本目がもうすぐ始まる。消去法的に、次は紅葉の得意種目を行う番だけれど、一体何をするんだろう。
「紅葉の得意なことかぁ」
言われてみれば思いつかないや。グラウンドに運び込まれてきた備品と言えば、握りやすそうな棒が左右に付いた丸机くらいだし。
棒を握りながら行う勝負と言えば――――――。
「―――――――――あれ、もしかして?」
僕には分かったかもしれない。テレビで見たことがあるんだよね、屈強な男たちが手を握り合っている様子を。
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