第94話
「ど、どうして
それでも3人は敗因が分かっていないようだったから、代わりに僕が教えてあげることにする。
幼稚園児の段階で、味の優劣が分かる子供はそう多くないと思う。美味しければ美味しい、不味ければ不味い。彼らが持っている札はその二種類だけ。
ならば、彼らが美味しいものに勝ち負けを与えなければならない状況になった時、より重視するのは主に『馴染みのある味』と『食べやすさ』となる。
その点において、クック先生と同じ味付けをし、他の人よりも野菜やおかずの大きさが小さかった紅葉は、幼い審査員たちにとっていいコックだったということだ。
そう説明すると、紅葉は何かを思い出したように頷いた。
「私、小さく切る癖があるのよね。自分が大きなものを口に含むのが苦手だから」
「その癖が、体の小さい幼稚園児たちにもピッタリハマったんだよ」
僕が「よかったね、身長低くて」と言うと、彼女は「う、嬉しくないわよ!」と軽くパンチをしてきた。
あまり力がこもっていないところを見るに、本当は少しだけ嬉しいのだろう。まったく、素直じゃないんだから。
「確かに、私はお兄ちゃんに合わせた味と大きさにしちゃったよ……」
「私もだよ〜、先輩のためのお弁当だったし」
「私も同じですね」
敗北した3人はそれぞれ残念そうに俯いている。けれど、白銀さんの「でも、ずるっぽくないですか?」という言葉で顔を上げた。
「確かに。お兄ちゃん、紅葉先輩に肩入れしてるみたいだよ!」
「それはよくないと思うよ〜♪勝負は無効だよね〜」
「わざと勝たせるように、園児たちを呼んだのは明らかですからね」
3人は紅葉の勝ちがどうしても許せないらしい。白銀さんとカナは彼女を助けに来たはずなのに、どうして敵側に回っているのか謎だよ。
でも、こういう時に黙らせることの出来る力を、今の僕は使えるんだよね。そう、『職権乱用』という魔法を。
「審判は僕だからね。文句があるなら、失格にしちゃうよ?」
「「「っ……」」」
3人は悔しそうな顔をしながらも、それ以上文句を言うことは無かった。
「ふふ、審判って思っていたより面白いね」
こうして5本勝負2本目の決着が着いたのだった。
5本勝負2本目終了後途中結果
1位
2位
3位
「ビリって書きなさいよ、ビリって」
「まだ根に持ってたの?」
「当たり前よ。妹だからって
「僕が書いたわけじゃないってば」
「……ふんっ」
紅葉はそう言い残すと、ぷいっと顔を背けて白銀さんたちの方へと歩いていってしまった。
あんな感じだけれど、ずっと近くにいる僕には分かるよ。本当は2位に上がれて喜んでるんだ。
あのツンツンっぷりはその照れ隠しだね。
「そろそろ次の勝負を始めるよ〜♪」
ようやくキッチンの撤去が完了したところで、カナが口を開いた。次の勝負は、彼女の得意種目らしい。
そう言えば、彼の得意なことって一体何なのだろう。中学の時からの付き合いとは言え、そこまで深く知ろうとしてこなかったからなぁ。
コスプレやら文芸やらは、こんな場所でやるとは思えないし。
「次の種目は―――――――――――」
でも、彼女の口にした答えを聞いて、僕は思わず納得してしまった。確かにそれは、彼女の得意と言えるものだったから。
「―――――――――――『お世話対決』だよ〜♪」
カナ、世話焼きだもんね。
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