第92話
『5本勝負1本目結果』
1位
2位
3位
ビリ
「4位って書きなさいよ、嫌味のつもり?!」
2戦目の準備の合間に張り出された紙を見て、紅葉はそんな文句を零した。書いたのはボクじゃないから、睨まれてもどうしようもないのになぁ。
「それにしても、黒木さん。あなた、なかなかいい走りをしますね?」
「白銀先輩の方がすごかったよ〜?」
「元陸上部ですからね。後輩な上に陸上経験もない人にあそこまで僅差だとは、我ながら情けないです」
白銀さんは小さくため息をついたかと思うと、チラッと紅葉の方へと視線をやった。
「でも、どこかの誰かさんは
「し、仕方ないでしょう?! おかしいのは私じゃなくて、あなたたちの速さの方なんだから!」
「ふふっ、それもそうですね。ごめんなさい、おかしいくらい速くて♪」
「ぐぬぬ……」
今にも飛びかかってしまいそうな紅葉を、僕は襟首を掴んで引き止める。今は勝負の最中なんだから、スポーツマンシップに則ってもらわないといけないし。
「でも、黒木さんの走り方、女の子にしては独特でしたね。まるで男の子の走り方を見ているようでした」
「「っ……」」
白銀さんの言葉に、紅葉とカナは一瞬目を合わせ、そして気まずそうにお互いそっぽを向いた。
「そ、そうね。女の子なのに変わってたわよね」
「あ、あはは〜♪よく言われるんだよね、女の子なのに」
やたら女の子だということを強調してくるなと思ったけれど、よく考えればそれもそのはず。白銀さんはカナが本当は男だと知らないのだから。
もしかすると、紅葉経由で伝わっている可能性もあると思っていたけれど、今の会話を聞く限りは、ちゃんと秘密にしているらしい。
紅葉って意外と口硬いんだね。いや、ぼっちだから秘密をリークするって考えが無いだけなのかな?
「……?」
白銀さんは2人の反応に首を傾げているけれど、それ以上は何も追求してこなかった。というよりも、追求する時間がなかっただけだね。
次の種目担当の奈々が、ようやく戻ってきたから。
「出来ましたよ、5本勝負2本目の準備が!」
「遅かったわね、なんの準備をしていたのよ」
「ふふん♪見てもらえればわかるかと」
奈々は得意げに胸を張ると、「あれです!」とグラウンドの中央を指差した。そして、それが何なのかを理解した他の3人は、揃って「……え?」と声を漏らす。
僕もさすがにこれには少し驚いたよ。だって、さっきまで人工芝しか無かった場所に――――――。
「次の勝負は、お弁当作り対決です!」
―――――――キッチンが作られていたんだから。
「……」
「……」
「……どうして?」
しばらくの沈黙の後、最初に声を発したのは紅葉だった。
「どうしてお弁当作りなの?! グラウンドよ?普通は体を使う勝負をするでしょう?!」
「それが1戦目で体を使ってボロ負けした人のセリフですか?」
「か、関係ないわよ!とにかく、グラウンドで料理なんておかしいから!」
「どうしても体を使いたいというのなら、体にでも盛り付けすればいいんじゃないですか?」
「っ……す、するわけないでしょう?!」
紅葉は審判である僕に、「ありなの?」と救いを求めるような目で聞いてきたけれど、ルールには確かに『スポーツのみ』なんて規定はなかった。
グラウンドを使っていて、勝敗を決められるものであれば、何を選んで構わないのだ。
つまり、僕の出せる答えは「アリ」のみということ。
「くそぉぉぉぉっ!」
「でも、紅葉はお弁当作るの得意でしょ?」
「……いつもはクッ〇パッドを頼ってるのよ。書いてある通りにやれば失敗はしないもの」
「なるほど」
それはお菓子作りでクック先生のお世話になっている僕も共感出来た。言われた通りにやれば失敗はしないけれど、それ以上になることもない。
とりあえず練習って時や、初めて作るものの時は、なかなかアレンジなんて出来ないからね。
自分オリジナルを組み込む癖がついていないのなら、確かにこの勝負では不利かもしれない。
けれど、紅葉は1戦目で負けているから、これ以上ビリを積み重ねることも出来ないはず。紅葉を応援している以上、ここで敗北を確定させる訳にも行かなかった。
「奈々、勝敗の判定基準は?」
「誰かに食べてもらって、順位を決めようかと思ってるよ?」
「それならさ―――――――――――」
その審査員、僕にやらせてくれる?
僕の言葉の意味を理解したのか、紅葉の口元がほんの少しだけ笑った。
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