第89話
「ところで、なんの勝負をするの?」
僕が4人にそう聞くと、
「予定では3本勝負だったわ。私の得意なもの、
「なかなか物騒だね。でも、参加者が増えたから、予定を変えなくちゃいけないんじゃない?」
「そうなのよね……」
紅葉がため息をつきながら、例の2人を横目で見ると、「助けに来たというのに、その顔はなんですか!」と白銀さんが不満そうな声を上げた。
「助けなんて必要なかったわよ。むしろ、準備が無駄になるかもしれないんだから、来ない方が助かったくらいね」
「紅葉先輩、酷くなーい?せっかく友情って感じだったのに〜♪」
「今だけの友情でしょう?嫌いなのよ、そういうの」
紅葉は零すようにそう呟くと、「そうねぇ……」と顎に手を当てて考え込み始める。そして数十秒後、ようやく思いついたように顔を上げた。
「いい案を閃いたわ。3本勝負を5本に増やして、全員の得意分野で勝負するのはどう?」
「最後の一本は?」
「そこはやっぱり拳ね」
「紅葉、ストレス溜まってるなら話聞くよ?」
「そ、そういうことじゃないわよ!一番勝敗がわかりやすいものを残してるだけだから!」
本人はそう言っているけれど、本当のところは僕にほ分からない。実は心に闇を抱えていたりしなければいいけど。
今後、彼女の言動は注意して見た方が良さそうだね。ぼっちだし、僕が力になってあげないと。
「3人もそれでいいわね?」
「ええ、問題ありませんよ」
「私もいいよ〜♪」
「……奈々ちゃんは?」
紅葉がそう聞くと、それまで口を閉じていた奈々は、ゆっくりと3人の顔を順番に見た後、もう一度紅葉へと視線を戻して小さく頷いた。
「正々堂々と、お願いしますね?」
ニコリと笑った奈々の表情が、いつも僕に向けられているものとは少し違っているような気がした。
透き通っているはずの湖が一部分だけ濁っているような、そんな違和感。
次の瞬間にはそれさえも消え去っていて、ただただ可愛いだけの妹がそこに立っていた。気のせいだったのだろうか。
その後、観客にもわかるように、確定した5本勝負のルール説明が行われた。簡単にまとめると以下の通りだ。
『全ての勝負は、1位が4点、2位が3点、3位が2点、4位が1点を、それぞれの順位に応じて獲得する。
5本勝負が終わったその瞬間に、最もポイントの高かった者が優勝となる。』
つまり、最終的な総得点で勝負するということになる。これなら、一度ミスをしてしまっても、優勝のチャンスが完全に消える訳では無いし、逆に言えば一度1位をとっても安心できない。
最後までハラハラドキドキするこの勝負方法は、観客達にとって応援のしがいがあるだろう。
しかし、後から付け足されたとあるルールは、僕には理解しづらいものだった。それが―――――。
『4人はそれぞれ、5本勝負のうち任意の1本で、自分のみに有利なハンデを得ることが出来る。』
――――――というもの。
紅葉が言うには、自分の苦手な分野での勝負をする時などにこの権利を使えば、他者よりも自分が勝ちやすい条件で始めることが出来るというものらしい。
ただし、使えるのは5本勝負のうちの1本のみで、最終的に同点となった場合は、この権利を未使用だった方の優勝となるんだとか。
どんなハンデが付与されるのかについては、観客達に紙に書いて投票してもらったものの中からランダムに一つを取り出すし、その場で決定することになっている。
権利を使用してからでないとハンデの内容が分からないことは難点だけれど、ハンデにならないものやおかしな内容のものは無効にするルールもあるから、無駄撃ちになる心配はない。
きっと、使い所によっては大きな武器になってくれるだろう。
「瑛斗さん。観客の人数の割に、紙の数が多い気がしません?」
「―――――――そんなことないと思うよ?」
「……嘘はいけませんよ。書いてあることが全部同じじゃないですか。これは預かっておきますから」
紅葉のために『身長が155cmよりも低いなら、ゴール1m手前からスタート』と書いた投票を偽造しておいたのに、白銀さんに全て没収されてしまった。
こうなってしまったら、紅葉が実力で勝ってくれることを願うしかない。
「くれはおねーちゃん、がんばれー!」
「ふぁいとー!」
「かってぇー!」
「負けたら自腹だからねー」
「どうしてあなたが幼稚園児に混ざるのよ?!」
結局、審判係をしろと無理矢理連れ戻された。見てるだけの方が楽なのになぁ。
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