第88話
翌日の放課後、グラウンドの中央では二人の女子生徒(と隣にいる僕)が睨み合っていた。
一方は僕の友達で、もう一方は妹。どっちを応援すればいいのか悩みたいところだけれど、
しっかりと彼女が勝ちやすくなるよう、根回しはしておいたつもりだ。
ちなみに、いつもなら複数の部活動が使用していはずのグラウンドの貸切は、
試合の近い部活なんかは、渋い顔をされたみたいだけれど、『勝った方がチアリーダーとして試合の応援に行く』という条件を提示すると、揃って首を縦に振ってくれたんだとか。
我が妹ながら、意見の通し方をよく知っているなぁって感心しちゃったよ。
「奈々ちゃん頑張れ〜!」
「負けるな
「俺たちのためにも頑張ってくれぇぇぇぇ!」
そういう話があるからか、グラウンド横の観客席には、野球部やサッカー部、陸上部などの生徒が集まっていた。
まるで大勝負でもするかのような雰囲気の中、これから唐揚げ丼引換券を奪い合う戦いが始まるなんて、一体誰が思えるんだろうね。
「…………」
「紅葉、頑張れー」
「っ……な、情けをかけられると余計恥ずかしいのよ!」
なんだか居心地が悪そうな顔をしていたから、僕が声援を飛ばしてあげたのに、紅葉は余計に俯いてしまった。これは観客の圧に負けちゃってるね。
まあ、いくら紅葉がS級だと言っても、普段から愛想のいい奈々の方が知名度は高いみたいだからなぁ。
作り笑顔も出来ない彼女が勝つには、現状このプレッシャーを跳ね除けた上で、実力勝負をするしかない。
しかし、こんなこともあろうかと対抗策は用意してある。僕はポケットからデバイスを取り出すと、とある人物に『準備OK』とメッセージを送った。
「紅葉、安心して。応援団達が来てくれるから」
「……応援団……?」
首を傾げる紅葉に、僕は親指を立てて見せた。
数分後、観客席にぞろぞろと入ってきた集団を見て、紅葉はあんぐりと口を開けたまま固まる。
「あれが応援団……?」
「うん、紅葉応援団の幼稚園児達だよ」
「そうよね、幼稚園児よね?! 一体どこから連れてきたのよ!」
「
「まあ、来てくれたのはありがたいわよ?でも、あんな小さい子達じゃ応援なんて――――――――」
「安心して、
「……セコいわね」
「そうでもしないと、紅葉のファンなんて居ないでしょ?」
「事実なのに
紅葉には不満があるようだけれど、少しは周りの圧が気にならなくなってくれたみたいだ。これだけでも出来たなら、幼稚園児達に握らせた飴玉も無駄にはならないはず。
「くれはおねーちゃん、がんばれー!」
「がんばってぇー!」
「まけるなぁー!」
小さな応援団員たちも頑張って声を出してくれているみたいだし、そろそろ試合の最終準備段階かな。
と言っても、これは僕が何かをしたわけじゃなく、紅葉と仲のいい2人ならきっと噂を聞き付けて現れるだろうという予想でしか無かったけど。
「1人で妹を倒そうだなんて、同盟相手である私に失礼だとは思いませんか?」
「私を置いていくなんて、水臭くない?勝負事は全員でやらないとね〜♪」
その単なる予想の通り、白銀さんとカナは堂々とこのグラウンドの中央に立っていた。
観客席はより一層賑わい、奈々派だった者達も白銀派・黒木派へと別れていく。さすがS級の2人だよね。
「くれはおねーちゃん、ふぁいとー!」
「おかしもっとー!」
「せんせー、のどかわいたぁ!」
「ねーねー、といれどこー?」
そんな中、幼稚園児たちを遠い目で眺めていた紅葉が、「私だけ……ちびっ子……」と小声で呟いたのが聞こえた。
「安心して、僕も紅葉を応援するから」
「はぁ、そんなんじゃ勝てないわよ」
「あ、負けたら
「……いくら?」
「人数×900円と幼稚園の先生へのお礼もあるから―――――――――――3万円くらいかな」
「は?! か、勝ったら?」
「綿雨先生の給料から差し引かれる」
「何の得があって、先生はあなたを手伝ったのよ」
「また揉んで欲しいんだってさ」
「……肩よね?肩のことよね?!」
「そうだけど、他に何があるの?」
「い、いえ……確認しただけよ」
紅葉はそう言うと、僕から顔を背けてしまった。なんだか胸の辺りを気にしてるみたいだけれど、不調とかでは無さそうだから大丈夫だよね。
「揉まれると大きくなるって本当なのかしら」と呟いていたけど、「肩は揉んでも大きさ変わったりしないよ」と答えてあげたら、呆れたような顔をされてしまった。
むしろ、足とか顔なんかは正しいマッサージで細くなったり小さくなったりもするんだから。心配なんてしなくていいのにね。
紅葉もしっかり女の子なんだなぁ。
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