第87話
「再測定って、ランクのことですか?」
「ああ、その通りだよ。
そう言えば、前にここに来た時も再測定の話をされた気がする。あまり気に止めていなかったけれど、ランクが上がれば就職に有利にはなるし、確認しておいて損は無いかもしれない。
「じゃあ、お願いします」
「うん、その返事を待っていたよ」
叔父さんは満足そうに頷くと、学園長用の机の引き出しを開けて、中から見覚えのある機械を取り出した。
それを以前と同じように僕に向け、スイッチをオンにすればすぐに結果が表示される。彼はそれを確認すると、「ふむ、なるほど」と呟いた。
「何か変わっていましたか?」
「……いいや、相変わらずF級だよ。余計な手間を取らせて悪かったね」
「いえ、そんなことだろうと思っていました。そもそも、僕が変わろうとしていませんから」
「人は変わろうとしなければ、変われない生き物だからね。気は向かないかもしれないけど、チャレンジしてみてもいいと思うよ」
「覚えておきます」
僕は頭を下げると、学園長室を後にした。
ガッカリした訳では無いけれど、全く変わりがなかったというのはちょっとだけショックだったかもしれない。
まるで、お前は成長していないと言われているような気がして、唸りたくなる気持ちも少しだけあるのも事実だった。
勉強はコツコツとやっているつもりだし、学力のステータスが少しくらい上がってくれていても良かったはずなんだけどなぁ。
「……ん、お話は終わったのか?」
扉を閉めると、その音で気がついたのか、文科省のお姉さんが横目でこちらを見た。腕を組みながら壁にもたれ掛かっている姿は、僕からしてもかっこよく見える。やっぱり剣道が強そうだ。
「ずっとここで待っていたんですか?」
「そうだ。他に用もないからな」
「学校見学でもすればいいのに」
「私はもう大人だ、見て楽しいものでもないだろう」
言われてみればそうかもしれない。というか、僕だって学校を見て楽しんだ記憶なんてないし、そもそも面白いものでもないのかな。
「そう言えば、まだ若いのに文科省なんてすごいですね」
「お世辞のつもりか?そう珍しいことでもないだろう」
「いえ、僕もお姉さんのように、いい場所に就職するのが夢なんです」
「……夢か」
お姉さんは一瞬だけ遠いところを見るような目をすると、「私にもあったな……」と呟いて、それからすぐに元のクールな瞳に戻った。
「お姉さんはどうして――――――――」
「
「じゃあ、結衣さんはどうして恋愛格付け制度の担当になったんですか?」
「そうだな、どうしてと聞かれると答えづらい」
「理由があるんですね?」
「もちろん、上司にやれと言われたというのもある。数年前の私は、まだまだ未熟者だったからな。逆らうなんてことは出来るはずがなかった」
結衣さんは「だが、今も続けている理由はある」と言うと、僕を扉の前から移動させてドアノブを握る。そして、捻るのと同時にこちらを見て、ポツリと零すように言った。
「潰すためだ、馬鹿げた制度を」
僕がその言葉の意味を理解し終える前に、彼女は扉の奥へと消えしまった。
そこにどんな思いが込められているのかは分からないけれど、F級の僕にとってはそこまで気にすることではないのかもしれない。
「
誰に言うでもなく大きめの独り言を呟くと、僕は学園長室の前を離れて廊下を歩き始めた。
予想するとすれば、きっと紅葉の思い通りにはいっていないだろう。この学校じゃ、噂は案外早く回るみたいだからね。
「勝負も一筋縄ではいかないと思うなぁ」
彼女らの耳に届くのも、そう時間はかからないだろうし。
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