第54話
僕が教室に到着した時、
1時間目の準備をしている間に耳に入ってくる声は、どれもこれも『連休中どうしてたか』というもので、クラスメイト達はみんな楽しい3日間を過ごしたらしい。
僕も楽しかったよ、ゲームに動画にお昼寝。もちろん紅葉とのお出かけも疲れたけど楽しかったし、また機会があったら誘ってみようかな。
「
「あ、
いつの間にか隣の席に戻ってきていた彼女が、微笑みながら会釈してくれる。3日ぶりというのは久しぶりの内に入るのかは分からないけど、とりあえず合わせておいた。
「瑛斗さんはこの連休、何かしましたか?」
「色々したかな、ゲームを」
「……あはは、外に出たりは?」
「お出かけはしたよ?奈々と夕飯の買い物にも行ったし」
「なかなか楽しそうな連休ですね」
白銀さんは口元に手を添えて上品に笑うと、「羨ましいです」と付け加える。この口ぶりだと、まるで自分は楽しくなかったと言っているように聞こえちゃうなぁ。
「白銀さんはどうだったの?」
「私ですか?私は……」
彼女はそこまで言うと、キョロキョロと周りを見回し始めた。そして、「ここではちょっと……」と口を噤んでしまう。
それだけで、僕でもどんな内容なのかを察せてしまって、ここで聞かないまま引き下がる気になれなくなった。
「なら、場所を変えよっか」
「え?ちょ、瑛斗さん?!」
白銀さんの手を取ると、彼女は驚いたような声を漏らす。それを聞いた取り巻き達が慌てたように駆け寄ってきて、僕のことを取り囲んだ。
「あなた、麗子様に何してるの!」
「気安く触らないで!」
「麗子様、嫌がってるでしょ?」
彼女らは口々に怒鳴り、僕の腕を引っ張ってくる。僕も痛かったけれど、僕が掴んでいるせいで白銀さんまで痛そうな顔をしているのに気がついて、大人しく手を離すことにした。
でも、その行動に反して、白銀さんは強引に僕の手を握ってくる。
「麗子様、何をして……?!」と困惑する取り巻き達に彼女が「邪魔しないでください」と言うと、彼女らは震える声で謝りながら引き下がってくれた。
「瑛斗さん、行きましょう。
あえて目の前でそう言われた意味を理解したのだろう。3人の取り巻き達は互いに顔を見合わせると、何も言わずにその場を去っていった。
「白銀さん、良かったの?」
「ええ、大丈夫ですよ。私は瑛斗さんと2人っきりになりたいんです」
「そっか、じゃあどこがいいかな?僕はまだこの学校のことを全部知ってるわけじゃないから」
僕の質問に「そうですね……」と顎に手を当てて考える素振りを見せた白銀さんは、少しして「いい場所を思い出しました!」と微笑んだ。
「案内してもらえる?」
「もちろんです、行きましょう♪」
僕が白銀さんに連れられて向かったのは、校舎の5階から屋上へと続く階段の踊り場だった。
確かにここなら滅多に人は来ないし、他の人に聞かれずに話をするにはもってこいの場所だね。
「それで、白銀さんの連休はどうだったの?」
「ふふっ、あくまでその
「だって、連休の話でしょ?」
「……なんだか、優しいと言うより何も分かっていない感がありますね……」
彼女は苦笑いを浮かべると、階段に腰掛けて僕にも隣に来るよう促した。特に断る理由もないから、言われた通り隣に座ると、白銀さんは口元を緩ませたあと、ゆっくりと話し始める。
「この連休、もちろん私も遊びに行きました。ただ、相手はいわゆる取り巻きの女の子たちでして……」
「もしかして、あまり楽しめなかった?」
「……そう、ですね」
ぎこちなく頷く彼女の表情は少し曇りがかっていて、僕の中には自然と何とかしてあげたいという感情が芽生えていた。
「それは、チヤホヤされたから?」
「はい。学校と同じように接されて、休日モードになれなかったというか……」
「それなら今度、僕と遊びに行く?」
その誘いに白銀さんは「えっ?!」と驚いて目を見開いた。けれど、すぐにしょぼんと肩を落として首を横に振る。
「そんなの申し訳ないです。私のために時間を使ってもらうなんて」
「一緒に遊ぶなら、それは自分のための時間じゃないの?僕は白銀さんに同情してる訳じゃなくて、せっかくだから仲良くしたいと思ってるだけだよ?」
「……迷惑じゃないってことですか?」
「当たり前だよ」
「本当の本当に?」
「僕が迷惑だと思うのは、歩きタバコとあおり運転くらいだからね。白銀さんならむしろ大歓迎」
「ふふっ、そう言って貰えると助かります♪」
彼女は嬉しそうに笑うと、ポケットからメモ帳を取り出して『瑛斗さんとお出かけ』と書き込んだ。
「日はいつにしますか?瑛斗さんの暇な日でいいですよ?」
「僕に忙しい日があるように見える?」
「……胸を張らないでください、なんだか悲しいです」
「じゃあ、明日の放課後なんてどう?あ、学校が休みの日がいいならそうするけど」
「いえ、明日で大丈夫です!」
白銀さんは『明日!』と書き加え、パタンとメモ帳を閉じる。そして嬉しそうに頬を緩ませると、弾むようにその場で立ち上がった。
「今から楽しみです♪」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
「どこに行くか決めたいので、今夜デバイスに連絡します!暇な時にでも返信してくださいね」
「うん、わかったよ」
頷いて見せると、白銀さんはメモ帳を大事そうに握って階段を降りていった。遠ざかっていく足音を聞きながら、壁にもたれ掛かるようにして目を閉じる。
放課後に遊びに行くなんて、紅葉とポテトを買いに行った時のは遊びではないからカウントされないとして、すごく久しぶりな気がする。
正直、僕も少し楽しみだ。それに放課後だから制服のまま。着ていく服を選んだりしなくていいところが楽でいいよね。
世の中のカップルが制服デートとやらに憧れるのは、きっとそれが要因だと思う。知らないけど。
「あ、でもお小遣い足りるかなぁ」
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