第47話

 とりあえず、エアホッケーのリベンジは7頭身になってからにするとして……。

 その場を離れた私は、次なる遊びに目をつけていた。


「これをやるわよ!」

「ゾンビゲーム?あんまり得意じゃないなぁ」

「難しいの?ひとりじゃできないから、やったことないのよね」

「僕も奈々ななと一回やっただけかな」

「……そうよね」


 どこかほっとしている自分を感じつつ、薄い幕を避けて中に入る。視界に映るのは2人掛けの席と2つの銃、それから大きな画面。


「く、暗いのね……」

「ゾンビゲームだからね。怖いならやめとこっか」

「き、気を遣わないくていいわよ!ひとりじゃないから大丈夫……多分」


 そう口にしてみるものの、指先が震えていた。瑛斗えいとはそれに気が付いたのか、「出口に近い方に座って」と場所を交代してくれる。


「100円ずつ入れたらスタートするみたい」

「ここに入れればいいのね……」


 投入口に100円玉を近付けてみるけれど、暗さと震えで上手く入らない。そんな私を見かねて、瑛斗が代わりに入れてくれた。

 頼ってばかりで少し申し訳ないわね……。


「ほら、銃は自分で握ってね」

「それくらいなら大丈夫よ」

「手を離したら噛まれると思って」

「ぞ、ゾンビに……?」

「ううん、僕に」

「……あれ、ここに座ってること自体が危ないんじゃ?」


 そんな会話をしているうちに、画面にはゾンビがぞろぞろと現れ始める。どれもこれも気持ち悪い見た目をしていて、目をつぶってしまいたくなる。

 けれど、私が手にしているのは助かる手段だと思うと、不思議と落ち着いてトリガーを引けた。


「頭を狙ってね、手榴弾はボス戦のために温存かな」

「そ、そんな余裕ないわよ!」

紅葉くれは、後ろ危ない」

「ふぇっ?!」

「頭ぶつけるから、あまり暴れたら危ないよ」

「ゲームの話をしなさいよ!」


 振り向いちゃったじゃない!確かに危なかったけれど……。

 とりあえず、そのまま1ステージはクリアして、2つ目のエリアに入った。敵の種類や強さも変わっているみたいで、さっきまでみたいに体を撃っても倒しきれないことが増えてくる。

 瑛斗に言われた通りに頭を狙ってみるけれど、右へ左へ不規則に揺れるものを狙うのは簡単じゃなかった。


「うっ、負けちゃったわね……」

「仕方ないよ、元々クリアできるように作られてないんだから」

「それにしても悔しいわ。コンテニューしてもいい?」

「いいけど、難しいよ?」

「望むところよ!」


 仕方ないといった顔で、上げた腰をもう一度下ろしてくれる瑛斗。私の手はもう震えていなかった。きっと彼のおかげだ。


「武器がショットガンに変わったわ!」

「マシンガンと違って威力が高いから、頭一発で倒せるって書いてあるよ」

「なら、落ち着いて狙う方がいいわよね」


 一度深呼吸を挟んでから、画面をじっと見つめる。どのゾンビが一番近づいてきているのかを判断し、落ち着いて銃口を頭に向けた。そしてトリガーを引くと……。


「やったわ!ヘッドショットよ!」

「成長したね、紅葉。これで立派なキラーゾンビだよ」

「私がゾンビになってる?!それを言うならゾンビキラーでしょ?」

「いや、このゲームの主人公は実はゾンビなんだよ。でも、他の人と違って人間の意志を持っている不思議な体質で……あ、クリア時にわかる事なんだけどね」

「さらっとネタバレしないでもらえる?!」

「僕も奈々にされたから、その仕返し」

「……仕返しの意味、わかってる?」


 思わずため息を漏らしたものの、2ステージも何とかクリア。3ステージ目の中ボス戦に突入した私たちは、手榴弾を投げまくったものの、あっさりと敗北してしまうのであった。



「……あのゲームだけで700円溶けたわね」

「僕は止めたのに、紅葉がクリアするって聞かないからだよ」

「わ、悪かったわね!今度りんごジュース奢るから許しなさい!」

「ポテトもつけてくれないとなぁ」

「っ……足元見おって……分かったわよ!つければいいんでしょ、つければ!」

「交渉成立だね」


 奢るなんて言わなければよかった……と肩を落としつつ、いくつかのクレーンゲームで惨敗しながら店の端の方まで行くと、誰もが見た事あるであろうゲームが視界に飛び込んできた。

 さっきのゲームで、普段騒がしいところに来ない瑛斗はそれなりに体力を消耗している。その点、私は元々体力がある方だから、この差は有利に働くはず……!


「瑛斗、次はこれで勝負よ!」

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