第24話

「ただいまー」


 玄関で靴を脱ぎながら、電気の付いていない家の中に向かってそう声をかける。どうやらお姉ちゃんはまだ帰ってないらしい。

 バイトか、大学か、友達と遊びにでも行っているんだろう。……羨ましくなんてないけど。


「疲れたぁ……」


 部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んで暫し脱力タイム。一日の疲れがベッドに吸い込まれるように体から抜けていく気がした。


「……さっきのメール、そういうことよね」


 ポケットからデバイスを取り出し、受信メール欄の1番上をタップしてもう一度目を通してみる。


 ―――――――――――――――――――――――

 このメールは学園長から直々にS級の女生徒にのみ送信している。


 前回の知らせに続いて、今回は君達に対してのみ知っていて欲しい情報があるんだ。

 狭間はざま 瑛斗えいとについて検索した人もいくらかはいると思う。そういう人たちは気づいただろう。

 彼のプロフィールの一部は、ボクの意向で隠させてもらっているんだ。

 理由は、あの数値を見た他のランクの女生徒まで瑛斗君に目をつけてしまうと、せっかくのS級同士の勝負が台無しになってしまうからだね。

 ボクの可愛い甥っ子の将来のためにも、学園最高ランクの実力で恋愛感情というものを教えてあげて欲しい。

 まあ、彼の在学中における恋愛は禁止しているから、実現してしまった時には相応の罰を与えるつもりだけれど。HAHAHA☆


 ―――――――――――――――――――――――


 メールの一番下に添付されていた画像を見てみると、そこに写っていたのは瑛斗の何も隠されていないプロフィールだった。

 新たに分かったのは、予想通り『恋愛無関心度』の項目。こんなステータスは初めて見たけれど、前のメールから話が繋がっていると考えれば当然よね。


「……え?」


 でも、その横に書かれていた数値は、私が予想していた何倍も高かった。


「に、2000……?」


 何度も目を疑ったけれど、そう表示されているのは間違いないし、入学の時に見たあの機械で測ったのだろうからバグの類とも思えない。

 恋愛に無関心だと聞いて、今まではまだ恋愛感情を知らないだけだろうくらいに思っていたけど、もしかすると狭間 瑛斗は本当に異性に興味が無いのでは?


「……って、何諦めてるのよ。絶対に落とせないなんてことは無いはずなんだから。これはあの愛想笑い野郎との勝負、負けられないのよ」


 こんな大きな壁を見せられて『登るのは無理』と言われてしまえば、人はむしろ登って見たくなるもの。私も例外じゃない。

 グダグダしていると他のS級もいずれ彼に接触してくるだろうし、家の近さと友達という立場を利用してでも、早めに関係を発展させないと。


「絶対に好きって言わせるんだから!」

「ふふっ、くーちゃん張り切ってるね〜」

「お、おおお姉ちゃん!?か、帰ってたの!?」

「実はずっとクローゼットに隠れていたのでした〜!思いふけるくーちゃんも私の天使でしたね、はい」

「私の部屋に勝手に入らないでって何回言えばわかるの!お姉ちゃんがいるとゆっくり出来ないでしょ!」

「何をゆっくりするのかなぁ〜?大好きな瑛斗くんのことを考えながら――――――――――」

「わーわー!何も聞こえないなぁー!」


 私は耳を塞ぎながら、頭突きで姉を部屋から追い出す。また邪魔されないようにしっかりと鍵もかけておいた。

 それでもドアの向こうから声だけは聞こえてくる。


『そんなに好きならデートに誘えばいいと思うよ〜♪』

「だ、だからそういうのじゃないから!」

『いい雰囲気になったら、そのまま家まで誘っちゃって……キャッ♡』

「何想像してるの!?」


 絶対に良くないことだろうけど、私も年頃の女の子だもの。少しくらいは気になってしまう……。

 まあ、その妄想の対象が自分となるとあまりいい気はしないけど。


『連れてくる日は教えてね〜?友達の家に泊めてもらうから♪』

「私達に何を望んでるのよ?!」

『甥っ子、楽しみだなぁ〜』

「気が早いから!ていうか、高校生でそういうのはちょっと……」

『くーちゃんは彼氏いない歴イコールだもんね。でも、最近の高校生は手が早いって聞くよ〜?』


 えっ、そうなの?責任も持てないくせして、『やることだけはやってます、えへへ♪』な感じなの!?そんなの創作上だけの話だと思っていたのに……。


『経験豊富なお姉ちゃんを頼ってもいいんだよ?』

「どっちの意味で豊富なのよ……」


 我が姉ながら、私とは正反対によくモテるのよね。小学生高学年の頃から彼氏がいなかった時期がほとんど無いくらいに。

 まあ、結局は尽くしすぎていつも振られてるらしいけど……きっとお姉ちゃんもやることはやってる側の人間なのだろう。

 プロぼっちな私には想像もつかない世界よね……。


『くーちゃんはどっちだと思う?』

「どっちでもいいから!早く自分の部屋に戻ってよ!」


 姉のセリフで一瞬、瑛斗の顔が過ぎった気がした。……いや、気のせいよね。そうに違いないわ、そういうことにさせてください。

 自分の部屋で異性の友達について考えてるなんて、客観的に見ればやばい人だもの……。

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