第23話

 帰り道、紅葉くれはは横断歩道で止まったタイミングで、デバイスを差し出してきた。どうやら、僕がさっき聞いたことを思い出したらしい。


「ほら、何見てるのかって聞いてきたじゃない?あなた、まだ学生プロフのこと知らないんでしょ」

「学生プロフ?あ、生徒の情報が見れるって言ってたやつのこと?」

「そうよ。覚えておいて損は無いから、今のうちに教えておいてあげるわ」


 彼女の差し出す画面には、見知らぬ生徒の名前とランク、いくつかの数値が表示されている。こんなことが許されているなんて、個人情報保護法も泣いてるね、きっと。


「この人、知り合い?」

「いえ、学年は同じだけど話したこともないわね」

「へぇー、この人も紅葉と同じS級なんだね」


 左上に『S』と表示されている様は、カードゲームのキャラ表示画面を彷彿とさせる。ピンク色の髪をした可愛らしい女の子だから、あまり強そうには見えないけど。


「この人、学力も器用さも僕より低いのにS級なんだね」

「確かに……どっちもF級レベルの数値ね。でも、その代わりに『反魅力』の数値がずば抜けているのよ」

「反魅力?」

「要するに、魅力にならないはずのことが反対に魅力になってるってこと。彼女は頭の悪さと不器用さが異性にとっての魅力に変わってるのね」


 紅葉が言うには、インテリ系女子よりも少しおバカ系の方が、何でもこなす器用女子よりも鈍臭い不器用女子のほうが、男からすると癒されたり守ってあげたくなったりするらしい。僕には何がいいのかよく分からないけど。


「それに顔が可愛い上にスタイルがいいのよ。運動神経の数値が高いところを見るに、スポーツ推薦で入ってきたタイプね」

「確かにピンクなんて変わった髪をしてるから気付かなかったけど、容姿はかなり整ってるんだね。紅葉といい勝負かな?」

「ほ、褒めても何も出ないわよ……?」

「あ、でもBバストの差で紅葉の負けかなぁ」

「……こいつ、活火山の火口に突き落としてやろうかしら」


 すごく睨んでくるけど、僕はそれを無視して青になった信号を渡った。

 紅葉がブツブツと文句を言いながら少し後ろを着いてきている間に、彼女の手から取ったデバイスを操作してとある名前を検索してみる。


「あ、紅葉のプロフィールも出てきたよ」

「っ……や、やめなさいよ!」

「紅葉はどれくらいの数値なのかなぁ……って、あれ?」


 画面をスクロールして見てみると、先程見たピンク髪の女の子のものとは、明らかに違っている点があった。


「この何も書いてないところは何なの?」


 何かが書かれてはいるんだろうけど、所々の数値や項目の名前が見えないようにされている。まるで見られたくないことであるかのように。


「A級とS級には、プロフィールを隠す権利があるのよ。都合の悪いものは知られないようにできるってことね」

「一体何を隠したの?」

「言うわけないでしょ?隠してる意味が無いじゃない」

「あ、コミュ力とかかな?」

「っ……ち、違うから!」

「声が震えてるってことは図星ってことだよね」


 紅葉は本当にわかり易い。けれど、僕は別にそれをバカにしたいわけじゃない。都合の悪いことは隠す、それは賢い選択だとすら思うくらいだよ。


「あれ、僕のも隠れてるよ?」


 自分の名前を検索してみると、Fと書かれた写真がでてきたものの、紅葉同様に隠されている数値があった。


「F級なのにおかしいわね」

「僕が隠して欲しいって頼んだ覚えもないよ」

「……ということは、学校側が直々に伏せたってことになるわね。隠されているのは何の値かしら」


 紅葉がそう言って顎に手を当てたのと同時に、ピコン♪とい音とともにメールが届いた。僕がデバイスを返すと、彼女はその内容を確認し始める。

 そして読み終わると、「そういうことね」と呟いてポケットにしまい、僕に対しては何も言わずに歩き出してしまった。


「どんな内容だったの?」

「…………単なる迷惑メールよ」

「学園用のデバイスだよ?外部からのメールは来ないんじゃない?」

「迷惑メールなのよ、それで納得しなさい」

「仕方ないなぁ、マックのポテトで手を打ってもいいよ」

「どうして私が損する形になるのよ」

「あ、Lサイズね。半分あげるからさ」

「それならMでいいんじゃないの?」

「一緒に食べれば美味しいと思うよ?」

「……確かに魅力的な提案ね」


 紅葉は少し悩んでいたけど、最終的には「じゃあ、明日買いに行きましょうか」と頷いてくれた。やっぱり『一緒に』という言葉に弱いんだね。

 「え、紅葉が買って帰ってきてよ」と言ったら、膝裏を思いっきり蹴られちゃったけど。

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