第14話
どうでもいいけど、ドアについてる鍵って何も無くても閉めたくなるよね。自分だけの空間が確保されたみたいな気がして、ひとりでいるのに慣れている僕は、この方がすごく落ち着く。
「奈々の仕業かなぁ」
クローゼットを開けてみると、綺麗に畳んで入れていたはずの服がごちゃごちゃになっていた。こういうことは、奈々がブラコンになってから時々あるのだ。
彼女曰く、『お兄ちゃんの服の匂いを嗅がないといけない発作があるの!』ということらしいけど、Go〇gle先生も検索結果なしって言ってたから、新種の病か妄想かの2択だと思う。多分後者だろうけど。
別に掃除や洗濯物を畳むのは嫌いじゃないから、二度手間になること自体は特に文句もない。帰ってきても部屋で暇するだけだし、時間を潰すにはちょうどいいから。
でも、やっぱりこういうことをされると、兄として妹の将来が心配になってしまう。
外では優等生モードを貫いているみたいだから、友達から変なやつだと思われたりはしていないらしいけれど、それもいつボロを出すか分からないもんね。
僕のことを嫌いになって欲しいわけじゃないけれど、彼女自身のためを思えばそれもいつかはしなくてはならないのかもしれない。どうすれば嫌ってくれるのかなんて分からないけど。
「あ、そう言えば……」
僕は畳み終わった服をクローゼットに入れ直すと、立ち上がって窓の方へと向かった。
この部屋は窓の外にベランダがついていて、風にに当たれるようになっている。僕はそこで密かにサボテンを育てているのだ。
つい最近までお隣に住んでいたお姉さんが、引越しするのに持っていけないからと譲ってくれたもので、特に思い入れがあるわけじゃないけどもらったものを放置する訳にも行かず、毎日水やりだけはしているという感じ。
今日もいつも通り潤わせてあげようと水の入った霧吹きを片手にベランダへ。
サボテンをベランダを囲む胸の高さくらいの壁の上面の平らな部分に置き、シュッシュッと色んな角度から水をかける。針の先についた水滴が太陽の光を反射して少し綺麗に見えた。
「ねえ、サボテンくん。妹はどうすればブラコンじゃなくなるのかな」
サボテンが両手を上げた人のように見えて、つい話しかけてしまう。僕がやばい人とかそういうのではなくて、犬や猫に話しかけるのと同じ感覚だ。
ただ、もちろん返事が聞こえてくるわけじゃないから、そこは一人二役で応答することになるんだけど。
『お節介になれば鬱陶しいと思ってくれるよ(裏声)』
「本当かな?あの様子だと、逆に喜ばせちゃいそうだけど」
『なら、奈々ちゃんのクローゼットをごちゃごちゃにすればいいよ。気持ち悪がられて嫌ってくれるから(裏声)』
「それは絶対にだめだよ!」
「そこの人!うるさい!」
つい声に力がこもってしまって、ベランダの正面の家……玄関の裏側のお向いさんに家の中から怒られてしまった。
奈々のことになると、いつも気持ちが昂ってしまっていけない。僕はごほんと咳払いをして心を落ち着けてから、もう一度サボテンに向き合った。
「いくら奈々が僕にしたことだとしても、女の子のクローゼットは触れないよ」
『へー?
「そ、そういうことじゃないんだけど……」
『なら、ボクはもう相談に乗ってあげなーい。一人で悩んでればいいさ(裏声)』
「サボテンくん?返事してよ」
『…………』
「サボテンくん?サボテンくん!?」
「うるさいわね!勉強してるんだから静かにしてもらえる!?」
ガラッ!という窓を開く音とともに、怒鳴り声の主が向かいのベランダに飛び出してくる。
でも、相手と目が会った瞬間、僕らは互いにその場で固まった。だって、それは紛れもなく見知った顔だったから。
「ど、どうしてあなたがそこにいるのよ!」
「『そっちこそ!(裏声)』……じゃなかった。そっちこそなんでいるの?」
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