第10話
「どうかされましたか?」
ニコッと笑いながら、本から視線を外してこちらを見てくれる
優しい彼女ならいきなり目的を伝えても大丈夫そうだけど、やっぱり事前に確認しておくことはいくつかあると思う。
「白銀さんって、
「
「ごめんなさい」と頭を下げる白銀さん。謝られるようなことじゃないと伝えると、彼女はお役に立てなかったので……と申し訳なさそうに眉を八の字にした。
「そんな顔しないでよ。僕はただ確認しただけだから」
「そう言って貰えるなら……ふふ、
「僕にはさっぱり分からないけど。白銀さんの方が十分優しいと思うよ」
あんな態度をとった紅葉にすら怒ったりしないのだから、きっと聖女か何かなんだと思う。それならS級であることも納得だ。
「いつも白銀さんの周りにいる人達って友達?」
「そうですね……友達、なんですかね」
彼女は首を縦に振りながらも、どこか曖昧な笑顔を見せる。その返事はどこか歯切れが悪いように感じられた。
「言いきれない理由でもあるの?」
「ええ、まあ……」
白銀さんは周囲を警戒するようにキョロキョロと見回すと、小さなため息をついてから僕の耳に口を寄せて、小声で教えてくれる。
「実は、私がS級になったのは今年からなんです。C級から昇格したので」
「飛び級みたいなもの?すごいね」
「ありがとうございます。でも、そのせいでそれまで関わったことのなかった人が寄ってくるようになってしまって……」
なるほど、その内にあの3人も含まれていると。確かにランクが上がってから集まってきた人は、本人ではなくランクに興味があるようにしか見えない。
たとえそれが偶然であっても、タイミングがタイミングなだけに素直に信じることは出来っこないと思う。
「悪い子たちでは無いんです。でも、私の意見に賛成してばかりで、喧嘩や言い合いみたいな友達らしいことをした覚えがなくて……」
「まあ、喧嘩はない方がいいと思うけど。でも、確かにそれじゃ友達とは呼べないかもね」
聞いている限りでは、彼女らは白銀さんの友達と言うより親衛隊だ。僕に対する態度も、まるで白銀さんを守るようなものだったし。
でも、今の僕にとっては、それはかなり都合のいい状況だった。
「私はやっぱり言い合いのできる友達が欲しいです」
「それなら、紅葉と仲良くしてあげてよ」
「東條さんと……ですか?」
白銀さんはどうして?と言いたげな顔で僕を見てくる。
「紅葉、友達がいないって悩んでるんだよ。僕が友達になったけど、やっぱり女の子の友達がいる方が、何でも話せて彼女も学校が楽しいと思えるようになると思うから」
僕が淡々と理由を説明すると、白銀さんは瞳をキラキラとさせながら僕を見つめてきた。
「素晴らしいです!転校初日から人助けをするなんて、瑛斗さんはすごくいい人です!」
「そんなことないよ。僕の負担を減らすためでもあるし」
1人で紅葉のような人を相手にするのは、正直僕のキャパをオーバーしてしまっている。だから、これはそれを何とかするための策でもあるのだ。
要するに、自分のために紅葉の友達を作るってことになる。これのどこがいい人なんだろうか。
「引き受けてくれるかな?」
僕がそう聞くと、白銀さんは顎に手を当てて少しの間悩んだ後、「お二人の邪魔をしてしまうのは気が引けますが……」と呟きながら首を縦に振ってくれた。
「少しずつにはなりますけど、東條さんとの距離を縮めていきたいと思います」
「僕にできることがあれば手伝うよ。その代わり、ひとつ助けて貰いたいことがあるんだけど……」
「あれ?私がお願いを聞いた側だったような気がしますが……まあ、細かいことは気にしちゃダメですよね」
一瞬首を傾げた彼女も思考をポジティブにして、自分を自分で納得させる。そして「助けて欲しいことってなんですか?」と聞いてくれた。
「1日1本のりんごジュースを予約してもらいたいんだ。買い占められると困るから」
「ふふっ、りんごジュースがお好きなんですね。わかりました、東條さんと仲良くなるお手伝いの代わりに、りんごジュースの予約をさせてもらいます!」
当初の違和感なんて全く気にせず、取り出したメモ帳に今伝えたことを記す白銀さん。メモ帳を用意しているくらいなら、きっと頭もいいんだろうなぁ。
「ありがとう、白銀さん。これで僕は毎日楽しく学校に通えるよ」
「ふふっ、お役に立てたなら良かったです」
クスクスと口元を押さえながら上品に笑う白銀さん。彼女のおかげで、僕の日常にりんごジュースという名の平和が訪れた。
これでボクは毎日楽しく学校に……あれ、楽しく学校?……何かを忘れている気がする。
まあ、忘れるくらいだからどうでもいいことだろう。思い出した時にでもどうするか考えるとしよう。
僕は心の中でそう呟きながら、次の授業が始まるまで机に突っ伏して心地よい眠気に浸ることに専念した。
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