第7話

「仲良くなれそうな方は見つかりましたか?」


 白銀しろかねさんの質問は、あまりにもタイミングが良すぎた。もしかすると、僕と紅葉くれはのやり取りを見ていたのかもしれない。


「仲良くなれるかは分からないけど、悪意のある人ばかりじゃないってことはわかったよ」

「ふふ、そうですね。瑛斗えいとさんは優しいですから、きっと優しさを返してくれる方もたくさんいると思いますよ?」


 彼女はそう言って微笑むと、すぐ横の自分の席に腰掛けた。少ししてチャイムが鳴る。2時間目の授業の始まりを告げる音だ。


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 それから3つの授業を受けて、次に訪れるのは昼休み。つまり、昼食をとる時間だ。

 弁当を広げて食べようとすると、ここぞとばかりにやってきた白銀さんの取り巻きに「ここ借りるわね!」「いいわよね!」「F級に拒否権ないから!」と瞬く間に席を占領されてしまった。

 そう言えば、元の学校でもトイレから帰ってきたら席を取られてたなんてことがあった気がする。少し残念だけど、他の場所で食べようかな。


 僕はそう思いながら教室の中を見回した。ほとんどのクラスメイトが席を移動させたり、自身が移動したりなどして、仲のいい者と一緒に食べていた。

 こういう光景はどこの学校でも一緒なんだろうね。まあ、見たところランクの高そうな人は相応の人と一緒みたいだけど。

 でも、その中でもやっぱり例外は生まれるらしい。教室の真ん中で一人で食べている人物が目に留まった。


「ここ、座ってもいい?」


 返事を聞くよりも早く、近くのイスを動かして向かい合うように座ると、それまで居心地の悪そうにご飯を口に運んでいた彼女―――――――紅葉くれはは驚いたようにこちらを見つめた。


「勝手に座るんじゃないわよ」

「空いてるんだからいいでしょ?」

「そういう問題じゃ……」


 紅葉はそこまで口にして、諦めたように「まあ、いいわ」と呟く。どうやら、僕はここにいてもいいらしい。


「ほら、みんな誰かと一緒に食べてるからさ。そうするべきなのかなと思って」

「まあ……くだらない風潮みたいなやつね。私はそういうの大嫌いなのよ」

「なんだ、そうだったんだ。友達がいないから一人でいるのかと思ったんだけどなぁ」

「……あなた、平気でそういうこと口にするタイプなのね」


 感じたことを伝えただけなのに、ジト目で睨まれてしまった。やっぱり、僕の存在が邪魔なのだろうか。


「友達なんて作って何が楽しいのかしら。S級の肩書きさえあれば、将来は約束されたようなもの。低ランクと仲良しごっこする義理はないわ」

「そっか、じゃあ僕がここにいるのも邪魔だね。ごめん」


 嘲笑を混ぜつつ、周りの人達にヘイトを向ける紅葉だが、僕が申し訳なくなって離れようとすると、慌てたように引き止めてきた。


「ま、待ちなさい!どうして離れるのよ!」

「だって、僕みたいな低ランクと仲良くするのが嫌なんだと思って」

「そ、それは……確かにそうは言ったわよ?で、でも、離れることは無いんじゃない?」


 どこかよそよそしい様子の彼女は、立ち去ろうとする僕の腕を掴んでグイグイと引っ張る。


「じゃあ、僕はここで食べてもいいってこと?」

「……そうね、どうしてもというのなら、許可してあげてもいいわよ?」

「そういう感じならいいかな。食堂で食べてくる」

「ま、待ちなさいって!」


 わざわざ許可を出さなければならないほど嫌なのなら、迷惑はかけないようにしようと思ったのだけれど、どういう訳かそれでも紅葉は僕を引き止めた。

 その上、引っ張る位置を腕から胸ぐらに変えると、僕よりも強いんじゃないかと思うほどの力で引き寄せ、耳元で囁いてくる。


「み、見ればわかるでしょ?ひとりで寂しいの!大人しく一緒に食べなさいよ!」

「なんだ、やっぱり友達欲しかったんだ。それならそうと言えばいいのに」

「しーっ!しーっ!声が大きいわよ!あなたを私の友達にしてあげるから、代わりに寂しさを紛らわさせて!」


 あれ、友達ってならせてもらうものだっけ?

 そんな疑問はあったけれど、僕からすればご飯を食べる机とイスの確保ができる上に、学校のことを教えてくれる相手も手に入れられるわけだから、断る理由は見つからなかった。


「わかった、紅葉の友達第1号になるよ」

「第1号って……どうして他に居ないって決めつけるのよ」

「え、いるの?」

「…………いないわよ」


 周りには絶対に聞こえないであろう重い一言をもって、僕らの会話は一旦途切れることとなった。


――――――あ、僕も紅葉も聞き手側なんだね。

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