第2話
「一応聞いておきたいんですけど、どうして恋愛禁止なんですか?」
「あー、それ聞いちゃう?」
叔父はフランクな感じで首を傾げると、少しの間考える素振りを見せる。そして。
「甥っ子が青春してたら、叔父さんイラッとしちゃうからね」
とても真面目な顔でそう答えた。
「本気で言ってるんですか?」
「うん、ボクはいつだって本気だよ。全くモテなかった青春時代……甥に負けたなんて悔しいじゃないか」
僕は察した。これは触れちゃいけないやつだ、と。
まあ、特段恋愛するつもりもないし、別にいいかと聞き流しておく。
「ところで、この学園の制度内容についてはもう知ってるかな?」
「はい、恋愛格付制度のことですよね」
恋愛格付制度とは、先程も説明した通り国が推奨している仕組みのことで、取り入れているこの学園では、生徒それぞれにランクというものが振り分けられている。
上からS・A・B・C・D・E、一番下がFだ。
このランクは、顔やスタイル、運動神経や成績、様々なステータスを考慮した上で付けられ、在学中に変動することも珍しくない。
要するに、異性から見て恋愛対象としてどれほど適しているのかを示すものだと思ってくれればいいだろう。
A級以上になると、大企業の御曹司・令嬢とのお見合いの話が来たり、モデルや役者のスカウトが来たりなど、まず人生に失敗することがないんだとか。
B級やC級なら、小さな事務所から声がかかったり、ステータスによっては大学から推薦を貰えたりするかもしれないが、それ以下では平凡な日常を送ることになる。
つまり、この学園に入学するには学力だけではなく、それなりのステータスを持っていなければいけないわけだ。
だからこそ、ここに通っている生徒たちの顔のレベルが高いのだが……それでもやはり一定数は低ランクが出てしまうわけで。
「瑛斗君のランクも測っておかなくてはならない。スキャンさせてもらってもいいかな?」
叔父さんは机の引き出しから、何かの機械を取り出してみせる。これが噂に聞いた『政府公認自動格付機』だろう。
「ボクもできることならA級くらいにはしてあげたいんだけどね。制度を破ると後が怖いから、仕方なくこれに任せるよ」
「大丈夫です、覚悟は出来ていますから」
僕は運動ができるわけじゃないし、勉強だって努力はしたけどそこそこ止まり。中学時代にモテなかったから、顔も普通以下だと思う。
こんな地味な人間にいい評価がつくはずがないことは百も承知だ。だから、たとえF級だと言われても、傷ついたりなんて――――――――――。
「い、一体何だ……この数値は……!」
叔父さんが突然驚いたような声を上げた。そして、すぐに機械に表示された結果を見せてくる。
『F級』
そこにはそう書かれていた。僕はやっぱりかと思いつつも、ため息をこぼす。これで僕のスペックの低さは科学的に証明されたわけだ。
「いや、瑛斗君、気を落とすのは早いよ」
「叔父さん、いいんです。思っていた通りの結果ですから」
現実を突きつけられたようで、少し動揺してしまったけれど、良く考えれば僕みたいなのがE以上を付けてもらえるはずがない。
底辺でこっそりと生きているのがお似合いだろう。
「いや、本当に気を落とすのは早いんだよ。これを見たまえ」
そう言って画面を切り替えると、そこにはいくつかの数値が表示された。容姿、運動神経、力、才能……どれもC級レベルの50程度はあると言うのに――――――――――――。
「こんな数値、見たことないよ」
叔父さんが示したそれだけが、文字通り桁違いだった。
「……《恋愛無関心》、2000……?」
他と比べてずば抜けて高いそのステータス。名称の通り、恋愛に対する無関心さを表しているとは思うんだけど。
「このランクはあくまで異性にとって恋愛対象としてどうなのかを示すものだからね。そもそも測定する本人が恋愛に興味が無いと、異性からも恋愛対象にならないと判断されるんだよ」
叔父さんの説明によると、ランクは機械がその人物の重要だと判断して抽出した十数個の項目において、その合計値で決まるらしい。
良い項目はプラスを、悪い項目はマイナスをされることになり、他の数値が全て50前後の僕は、『恋愛無関心度』によって『-2000』されてしまう。
つまり、僕の判定数値はどう足掻いてもマイナスになるわけで――――――――――。
「瑛斗君、そんな落ち込まないで欲しい。数値は何度も変わるものだからね」
叔父さんはそう励ましてくれるけれど、恋愛に興味を持つことなんて、自分の意思でどうこうなる問題じゃないからなぁ。
「また少ししたら再測定してあげるよ。その時に変わっていれば、ランクを改めよう」
叔父さんはそう言いながら、先程僕がサインした紙に大きく『F』と書き込んだ。
「これからF級として生活してもらうけど、なにか質問はあるかな?」
「あ、食堂にりんごジュースはありますか?」
「……多分、あるんじゃないかな。なかったら明日から追加するように言っておくよ」
叔父さんは「昔からずっとりんごジュースが好きだね」と苦笑いしながら、転入届を大事そうに机にしまった。
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