第1話
女性に連れられて向かった先は、もちろん学園長室。僕は促されるままに扉を開けて中入ると、窓から外を眺める人物を視界に捉えた。
「久しぶりだね、
こちらに背中を向けながらそう声をかけてきたのは、紛れもなくこの学校の学園長だ。
「お久しぶりです、
僕がそう言って頭を下げると、学園長は楽しそうに笑いながらこちらを振り返る。
そして、学校の長らしい
「そんな他人行儀にしなくてもいいじゃないか。以前のように、叔父さんと呼んでくれて構わないよ」
煙が出る訳でもないのに、形だけ真似たような仕草で息を吐く学園長。そんな彼は、彼自身も口にした通り僕の叔父にあたる。
「叔父さん、この学園に招待してくれてありがとうございます」
そう、僕がここに来たのは、叔父さんから『転校してこないか』と招待されたからだ。でなければ、昨日まで通っていた学校をやめたりなんてしない。
本来、第一志望としていた高校に落ち、滑り止めとして受けていた所へ通うことになった僕は、その学習レベルの低さに呆れていた。
そんなところへ、進学や就職に最も有利だと言われている学校から招待が来たのだから、将来の人生設計を崩されたと絶望していた自分にとって、この上ない吉報だったことは間違いない。
「いやいや、ボクこそ無理を言ったのに来てくれて助かったよ。最近、1人辞めた生徒がいてね。この学園の制度的にも、人数が減るのはまずいんだよ」
叔父さんの言う"学園の制度"というのは、数年前に政府が出した『恋愛格付制度』というもの。
制度の目的が透明化されておらず、国民からは大反対されたらしいけれど、今後新設される学校のうち、代表が認めたところのみに取り入れさせるという約束でなんとか容認されたんだとか。
取り入れた学校は、基準を満たしていれば国から多額の援助を受けられることになっているらしく、通っている人数や男女比によっても援助額は大きく変動するそうで、そのためにここまで慎重になっているんだと思う。
「僕はその穴埋めをするんですね」
「穴埋めというと、なんだか聞こえが悪いね。でも、特例推薦枠として学費が免除されるから、君にとっても悪くないと思うんだ」
叔父さんがそう言うのも、僕の両親は共に長期出張で海外に居るからだ。僕自身にとっても、離れて暮らしている親に学費で負担はかけたくない。
自分のことを信じて妹を任せてくれた2人に、できる限りの孝行がしたいと思っていた。
高校の学費というのは、人生において大きな親への甘えになる。それが免除されるというのなら、僕にとってとても喜ばしい事だ。
「学費が免除されるなら、僕はどんな雑用でもするつもりです」
「いい心意気だ。でも、可愛い甥っ子にそんなことはさせられないよ。ボクの身の回りの事は、彼女が全部してくれるしね」
叔父さんはそう言って、僕をここまで案内した女性を示した。やはり、教師ではなく秘書だったらしい。
「まあ、元々君の妹さんも免除対象なんだ。あまり気にすることじゃないよ」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
叔父さんは僕の言葉に満足そうに微笑む。しかし、すぐにその表情を引きしめ、先程から机の上に置いてあった紙をこちらにスライドさせた。
「転入届だよ、ここにサインすれば手続き完了になる」
そう言われ、すぐにサインしようとする僕を、学園長は制止した。
「言ってなかったんだけど、この学園に転校させるにあたって条件が一つあるんだ」
「条件……ですか?」
僕の問い返しに叔父さんは大きく頷いて見せると、転入届に書かれた一文を指し示す。そこにはこう書いてあった。
『卒業するまで、一切恋愛をしないこと』
「これはどういうことですか?」
「そのままの意味だよ。君にはこの学園での恋愛を禁止するってこと」
恋愛禁止……つまり、彼女を作ってはいけませんってことになる。恋愛適正度合を測るこの学園でそれをOKするとなると、色々と矛盾が生じる気もしてしまうけれど―――――――――――――。
「いいですよ、分かりました」
僕は驚いた顔をする叔父の手を退けて、強引にサインを書いてしまった。これで入学手続き完了だ。
「本当に良かったのかい?好きな子に告白できなくなるんだよ?」
自分から条件を持ってきたと言うのに、念の為に確認してくる叔父さん。それでも僕の気持ちは変わらなかった。
「僕、恋愛に興味無いので」
「そ、そうか。ならいいんだ」
叔父さんはなんだか納得がいかないといった風だけれど、僕はとても晴れやかな気持ちだった。
「新しい学校、どんなところだろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます