第10話

「……君たちは何者だい?」


 ラフカディオを取り囲む男たちは何も答えない。黒の装束に奇怪な仮面をかぶった彼らは、ラフカディオが大通りを外れ薄暗い路地に入った瞬間に音もなく現れた。

 ラフカディオの正面に位置する男が武器を構えたのを合図に、周りに男たちも武器を取り出す。小ぶりのナイフ、細長い針にブラックジャックなど、彼らの持つ武器はそのほとんどが暗器に分類されるものだ。


(数が多いな。落ち武者を使うべきか? いや、手の内を晒すのはまずい……)


 路地の遠くにこちらをうかがう気配がある。おそらくはこの男たちの仲間。機動性に欠ける落ち武者ではあれを逃がす可能性が高い。男たちの目的が情報の収集であれば、ここでのイマジンを使えば相手の思うつぼだ。


「……!」


 次の瞬間、男たちが一斉に襲い掛かってきた。ラフカディオはそれに対抗すべく、リュートに手をかける。


 しかし。


 路地の奥から突然湧きたった闇が男たちを打つ。それに飲みこまれた男たちは、声1つ上げることなく地面に転がった。


「なっ……」


「まったく……この音楽の街に相応しくない無粋な連中だ。カペルマイスターは貴様らのようなゴミを斬るための剣ではないのだがな」


 足元の男を蹴り飛ばし、暗闇から声の主が姿を現す。手に歪な形をした剣を携えるその長身の男に、ラフカディオは見覚えがあった。


「お怪我はないかね、ミスター」


 仮面を撫でながら、アントニオ・サリエリは芝居がかった口調でそう問う。


「アントニオ殿……」


「かしこまった呼び方は結構。気軽にサリエリと呼んでくれたまえ、ラフカディオ君」


「小生の名前を存じているとは……光栄ですな。して、あなたが一介の音楽家である小生に何の用ですかな?」


 サリエリが大げさにかぶりを振った。


「謙遜も度を過ぎれば嫌味になる。君は間違いなく八仙楽われらと同等か、それ以上の腕の持ち主だ。昨日、レディから話を聞いた時には驚いたさ。君のような偉大なる楽師がどこにも使えず放浪しているなんて、とねぇ」


「何の用か……と聞いているのだが。ノムセルトの楽師であるお前さんがを傷つけてまで小生に近づいた理由を聞かせてもらおうか」


 ラフカディオの切りつけるような鋭い口調に、サリエリの目が細められる。


「ほう、気づいていたか」


 サリエリの上着のポケットからは、ノムセルト派閥であることを示す黄色の札が見えている。地面に倒れている男の懐から、同じ色をした木札が滑り落ちた。


「だがこの屑は同胞でも何でもない。あの老いぼれネズミに群がるハエ共と私と一緒にしないでくれたま……え!」


 サリエリの靴が倒れている男を踏みにじる。それでは飽き足らず、何度も、何度もサリエリは男を蹴りつけた。


「はぁ……はぁ……。さて、ラフカディオ君。私は君の敵ではない。むしろその逆、君の味方だ」


「にわかには信じかねるな。証拠はあるのかい?」


 激昂から一転、ニィィ……とサリエリの口が吊り上がる。自分の予想通りに事が進んでいる事に喜びを隠せないような、そんな表情だ。


「ふふ、そうくると思ったよ。もちろんあるとも。現状もっとも君が欲しいであろう情報、私はそれを持っている。






について、知りたくはないかね?」


 

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