第2話  いきなりのお別れ

 俺は彼女について何も知らない

彼女は言葉も話せないので知ることもできない。

どっちにしろ俺にはどうする事もできないいわゆる無理ゲーだ...


という事で、交番に行くということを決めた。


俺は座っていたベンチから腰を上げて立ち上がった

それを見ていた彼女も、ひょいっとベンチから立ち上がる。


俺が少し歩くと彼女も俺の後ろをテクテクとついてきた。

ついに手招きなしで、ついてきてくれるようになった


交番に向かうためには人通りの多いところを通らなければならない...

人混みは嫌いだし...彼女ともはぐれそうだな...

でも、行くしかないか...


人混みに入るが人と肩がぶつかり合う

人の話し声がいつもより大きく聞こえる


やはり耐えきれず、俺は近くにあった建物に避難した

入った店でも騒音が鳴り響いていた。

俺たちが入った場所はゲームセンターだった


「でるか...」と思い入り口から出ようとすると、

後ろに彼女がついきていなかった

もう少し店の奥に目を向けると、景品のくまのぬいぐるみをまじまじと見つめていた


「欲しいのかな?」

俺にはクレーンゲームはあまりやったことがなかったが何故か今なら取れる気がした。


カバンから財布を取り出して小銭を掴んだ


彼女の横に並びお金を入れた。


動いたクレーンを驚いたような興奮した表情で見ていた彼女はとても可愛かった...


数百円入れたところでぬいぐるみを落とすことができた。

取り出し口からボスっという景品が落ちた音が聞こえた。


ぬいぐるみを取り出して彼女に差し出すと

口を開けてぱぁーという言葉が似合いそうなほど嬉しそうな表情をしていた。


彼女は俺の手にあるクマをツンツンと人差し指で数回突いた後クマを両手で持った


数秒見つめた後ギューっとクマに抱きついた。

彼女はとても良い笑顔をしていてこちらも嬉しくなった。


彼女はくまに釘付けになっていたため、気付くように手招きをして、気づかせた。

そして、もう一度人混みに戻る。


彼女はくまを見つめて、抱きかかえながら歩いていた。


俺たちは交番へと着いた

扉を開けると警察官が椅子に座って何かを書いているようだった

「すいませーん」と呼ぶと警察官はこちらに気づいたようで椅子から立ち上がりどうしました?とこちらへ近づいてきた


「すいません、迷子の人がいるんですけど...」

と言いつつ彼女に視線を寄せる


「彼女言葉が通じなくて...」

警察官は事情を理解したようで、俺たち二人を椅子に座らせた。


そして、色々と警察官に聞かれた後時間も遅いしもう帰って良いよと言われた


今の時間は夜7時


彼女は一旦交番で預かるとのこと

俺は椅子から立ち上がり、警察官に一度会釈をしてから扉へ向かおうとした


すると、横からも椅子から立ち上がる音がした

恐らく彼女もついてくる気なのだろう...


俺は彼女に対して通じるか分からないが横に手を振ってばつの形を手で作った。


彼女は意味を理解したのか、持っていたくまの人形をギュッと抱きしめながら口の辺りをぬいぐるみに埋めて、片方の手で俺の手を優しく掴む


彼女の顔を見ると目に涙を浮かべて少し不安などがある顔をしているように思えた。

俺を掴んでいる手も少し震えている


俺が彼女の手を退けると勢い良くもう一度俺の手を掴んでから首を横にぶんぶんと振った


俺にはどうにも出来ないんだよ...


俺は彼女に「ごめんな...」と謝りもう一度手を離した。


そして、警察官に「彼女のこと、お願いします...」

と言いお辞儀をしてから、交番を後にした





















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