002 リベル、弁解す

「リベルさん、大丈夫ですかリベルさん!リベルさんっ!」


 ペトラがリベルの肩を抱いて揺する。いつものおっとりした様子はまるでない。

 その横でルーグが神父を問いただしていた。


「神父殿。これはどういう事だね?息子は、リベルの身に一体何が起こったのか分かるかい?」


「い、いいえ。わたくしには何も…ですが司教様でしたら何か知っているやもしれません。少々お待ちください」


 神父がそう言って部屋を出ようとした時、合わせて扉を開けて入ってくる人物がいた。


「これは、司教様!丁度良いところへ。只今お呼びしようかとしていたところです」


「ふむ。すると先ほどの光はこの部屋で合っているようじゃな?」


 司教と呼ばれた男は白髭を撫でながら部屋を見渡し、リベルへと視線をやる。


「そちらの少年がスキルを授かる時に先程の光があったんじゃろう?」


「は、はい。こちらデイルート家のご子息、リベル殿がスキルを授かろうとしていた時でした。通常の授かりの時間よりも長かったので気にはなっていたのですが…

 その後に突然叫び声を上げたと思ったらこの様に」


 司教は何度か頷き、リベルを見ていた目を細めた。


「成程。わかりました、君はもう下がっていぞ。後は任せるといい」


「かしこまりました。女神ヴァリアールの加護があらんことを」


 そう言うと神父は部屋から出て行った。


「彼を怒らないでやってくれ、この教会の神父としてしっかりやっておった。今回だけが特別な事じゃろう」


「あなたは・・・いえ、息子は大丈夫なのですか?それになぜこんな片田舎へ」


「うむ、勿論ご子息殿は大事無い。しばらくしたら目を覚ますであろう。」


 安心感を与えるように落ち着いた口調で司教は言う。


「儂はこちらの教会に数年に一度の視察で来ていたのでな。昔から王都から離れた教会には悪魔が出るというもんじゃからのう。偶に、だが」


 グレイが悪魔という言葉に身を竦める。


「ああ、悪魔は言い過ぎだったかもしれん、言葉の綾というものじゃ。実際にはいたりしないから安心しておくれ」


 ペトラが上の息子を庇うように言う。


「司教様?こちらにいらっしゃった理由については納得しましたが、息子は…リベルに何があったのでしょう。口で大丈夫だと言われても安心できませんわ。」


「そうじゃろうな、私も奥方殿の立場だったらそう言っていたことじゃろう。どころか動揺して掴みかかって怒鳴り散らすかもしれん。とても強い、心の綺麗な方を選んだようじゃのルーグ」


 一呼吸おいてから、司教が髭を撫でる。


「ふむ。しっかりと説明した方が良さそうじゃの。デイルート家の為にも、その子の為にも。」


 司教はペトラ、グレイそしてルーグの目をしっかりと見た。




「そちらの、リベル・デイルート殿は女神様の遣いかもしれん」




 ―――――――――――――




 あたたかな感触の中、僕は目を覚ました。

 確か『録音』スキルとかいうのをみてから……あれ何だっけ?なんか叫んだような気もするし、色々な事を聞いた気もする。

 前のこんなことあった気がするけど何なんだろう。奇妙な感覚だ。これがデジャブってやつかな。

 何はともあれ覚醒の為に外へと意識の手を伸ばす。


「……んん」


「リベルさん!大丈夫ですか?頭痛いとかありませんか?」


 …なんか母さんっぽいけど、母さんっぽくない人に抱きかかえられてる。なんだこの美人。

 雰囲気が違う気がするけど……はっ!もしや母さんって双子いたのかな?ってことは


「えっと、母さんのお姉さま?妹さま?でしょうか。って言った方が良い…ヒッ」


 目の前の表情が1ミリも動いていないのにというかそういうものがすごく冷たくなった。汗が止まらない。

 これは知っている。結婚記念日だと嬉しそうにしていたその晩、父さんがいつもより帰りが遅かった時に兄グレイに『父さんが知らない女の人と歩いていた』と聞いた瞬間の母さんだ。あの時以来、絶対に母さんには逆らわないと兄さんと誓い合った。

 結局のところ、その日の父さんは件の女性のアドバイスで買ったらしいプレゼントと、普通に生きてれば絶対に聞けなそうな口説き文句で事なきを得ていた。てか母さんが真っ赤になるくらい見事なカウンターを決められていた。


「・・・リベルさん」


 やっべ。僕はこのまま死ぬんだろうか。父さん、母さん先立つ不孝をお許し下さい…

 あれ母さん目の前にいるわ。


「かッ、母さン?これはほらなんか雰囲気全然違かったしさ!それに目を開けたら母さんに似た超絶美人がいたもんだからさ!いつもと一味違った雰囲気の母さんだったから!双子の人かと思って!ね!?母さん!ね!?」


 声が裏返りながらもそんなこと知ったもんかと弁解を重ねに重ねて体感10分間えいえんを過ごした。

 その甲斐あってか知らんが何とか生還に成功。遠くで震えていた兄さんと見つめ合い命の喜びを噛みしめていた。





「あー、リベル。大丈夫だったか?色々と」


 今更ながら声をかけてきた父さんをスルーし、知らない爺さんに視線を向ける。

 神父さんはもっと若かったし、何よりさっきの普通なら気絶でもしてしまいそうな母さんのプレッシャーからもう回復していた。まあ僕の決死の10分べんかいの後半あたりでやっといるのに気付いたけど震えてたし。とにかくよくわからない爺さんだ。


「ああ。気遣いもできん爺ですまんの。儂は司教をやってるドルドという。よろしく頼むぞリベル少年よ」


 司教って偉い人っぽいけどなんでこんなところにいるんだろう。それに…


「あの。よろしくってどういう事ですか?なんか僕するんですか?」


「いやなに。少年もその兄も、12になったら学校行くんじゃろう。そこで王立の学園へ推薦しようかという事になってのう。儂は普段その学園の近くの教会で遣えておるからな。それでじゃ」


 んん?学園のことは知ってるけどなんで推薦という言葉が出てくる?

 通えるなら通えるで良いけどなんか裏口とか周りに言われそう。


「勿論正式な入学になるぞ?まあ少年たちの学力が授業についてこられるかは頑張り次第じゃがのう」


 面白そうにドルド司教が言った。

 成程それじゃあこれからもっとしっかり勉強しないとな。うん。てか気になったのはそこじゃない。


「や、あの、なんで僕らを推薦しようと?兄さんはまあ剣術がすごいからってのは分かるんですけれど…」


「ふふん。まあ一時期とはいえ聖騎士隊に入っておったルーグのよしみじゃのう。それにリベル少年よ、君は将来になるのではなかったのかの?」


 息子の賢者いじり本当に気に入ったのか、父よ……

 ってかまじで?!父さんあんなんで聖騎士隊だったのか、少し見直したよ。あれ、なんでやめたんだろ?


「いやそんな大したもんじゃないですよ、父さん達が勝手に期待してるだけで…兄さんは僕がそこまでじゃないと思うだろう?」


「え?いやいや、リベルったら謙遜も度が過ぎると、嫌味になっちゃうよ?

 ほら、リベルにはスキルがあるじゃないか、女神様からいただいあ

「リベル!そうだな!父さんもスキルの事が聞きたいものだな?!はっはっは!!」


 父さんが会話に割り込んできた。兄さんが喋るのゆったりしてるのはいつもだし、何もそんなに楽しみに聞こうとしなくていいじゃんか。全く。聖騎士隊分の見直しポイントが消えてしまったよ。


「や、そんなに凄いものじゃないと思うよ?父さん、ああ、司教様でもいいな

 ……『録音』スキルって知ってる?」





「「「……は?」」」





 ……ご存じない、と。



「じゃあ、『ステータス』スキルとか『言語理解』、『大魔力マナ利用』スキルとかは?」







「「「はい?」」」






 ……あれ、これもしかするとテンプレ来る?





「「「はあああああああああああああ??????!!!!」」」




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