001 スキル、授かる

 僕の名前はリベル。

 母はペトラで父がルーグ。そして兄にグレイという4人が我がデイルート家の家族構成である。


 この世界で僕が目覚めてからかなり経った。この前4歳の誕生日があったから少なくとも3年以上ここで暮らしている。その中で分かったことがある。


 この世界は女神ヴァリアールの元で人々が暮らすとされるヴァリアーズ。僕が住んでいる国はグレスタムというらしい。

 東には海、北に大山脈コーデル。西に行くと王都があるとか。

 ただ4歳児の知識だし正確にはもっと調べればあるんだろうけども。


 暦、時間に関しても地球と変わらなそうで安心した。

 唐突に一日の時間が変わったら嫌だしな。


 そして皆様お待ちかね。普遍的異世界転生よろしく魔法の登場だ。

 母さんが魔法で火を付けていたのを見たときは大騒ぎしてすごい困らせていたこともあった。

 その魔法なのだがどうやら呪文を詠唱して使うようだ。しかし残念ながら呪文は教えてもらえなかった。どうやら5歳になったら教えてもらえるらしいが詳しいことは分からない。


 前世で読んでいたラノベではこういう時、自分の魔力を体内で巡らせたりして魔力量とかを多くしてたが、無理だった。まず自分の魔力とか何よ。訳分からん。

 丹田たんでんに集中してみたりちょっと痛かったが血を流したりしてみたり、果てに一人で外に出てみようとした時は単純に両親に止められた。

 結局のところまるで魔力とかいうものを掴めず僕の『魔法チートで世界最強計画』は一瞬で頓挫してしまった。


 僕は知識チートとかに使えそうな専門知識なんてないし、剣道とかの武道も習ってなかったし、すごい魔法使えそうにもないし、オロナミンC


 かといってこっちの世界に来た時に神様みたいなのにも会ってないからなぁ……

 こんなことなら日々をもっと真面目に生きてチートに使える何かを身に着けておくんだった。




 ところで、こっちの世界に来てからも僕の睡眠事情は変わっていなかった。

 前世であればスマホいじりながら眠りに落ちていたのだがこっちでは本くらいしかない。

 しかもこの世界は電気がないし家計事情もあって夜の明かりも最低限だから夜中の読書も難しそうだった。

 だが僕の体は4歳児。朝から家中の本を読んだりしていると体力は嫌でも使う。

 ついでに本好きの僕の為に母さんが読み聞かせをしてくれるのでしっかり眠れている。有難いことだ。



 ――――――――――



 ごく普通の子供の生活をして1年が過ぎ、僕は5歳になる。まあ本を読む時間が少しばかり多いかも知れないけれど。

 僕が本好きだと知った父さんが近くの本屋だったり行商人からなり本を買ってきてくれていたから読む本に関してはそこまで困らなかった。中古だから安かったんだと。

 だけど僕が初めて見たときからするとだんだん父さんが痩せていってる気がしていた。

 申し訳ないやら有難いやらで父さんには他には気を遣わせないようにして、偶に肩たたきとかしたけど効果あったのかは分からない。

 気付いてからはしっかりと何度も繰り返し読んだし、将来親孝行してやりたいと思う。





「リベル、今日は5歳の誕生日だし何か欲しい物でもあるか?」


 朝食でのことだった。そういえば今日で5歳なのか。前世から年齢の事に関してはまるで興味がなかったことをふと思い出していた。


「ううん、父さんからはいつも本買ってもらってるし大丈夫だよ。でも魔法は早く教えともらいたいな!」


 するとルーグは笑いながら頭を撫でてきた。


「はっはっは、じゃあ賢者リベル様は早く教会に行かないとな!」


「教会?教会になんかあるの、父さん?」


 本には教会に関する情報はあんまりなかったと気がする。あっても女神ヴァリアールに関しての事だと思うが。


「何ってスキルを授かりに行くんだぞ?あれ、前に言ってなかったのかペトラ。」


「あらあら、そういえば5歳になったら、としかあの時は言ってなかったわねぇ」


 どうやら前に母さんが魔法を使っていて僕が騒いでいた時の事らしいが、全然聞いてなかった。母さんこういうとこ抜けてるよなぁ……


「まあそういうことなら仕方ないよな,うん。」


 父よ……

 母さんに関しては全てが甘くなるんだからこの人は。


 だが教会に行けば魔法が使えるようになるらしいので僕の行動は決まっていた。


「じゃあじゃあ!早く教会に行こうよ!ほら早く食べて!」


 自分の分のスープにパンを付けながらかきこむ。ちょっとむせた。


「こらこらリベルさん、ちゃんと噛んで食べてくださいね?教会は逃げないですよ~」


「そうだぞ、それに寝坊助グレイも連れてくからな。慌てずにしっかり食べなさい。」


「兄さんも連れてくの?それじゃあお昼過ぎない?」


 そう。うちの兄グレイは低血圧なんだか知らないけど、自分で起きてくるのは大体昼過ぎになる。あれで剣の腕が元騎士の父親と競える位あるらしいのだから不思議だ。


「いや、きょうはお前の誕生日だからな。そろそろ起きてくるんじゃないか?」



「――ふゎああああ……」



 どうやらルーグの言った通り、というか打合せてたんじゃないかって位のタイミングでグレイが起きてきた。


「…おはよう、兄さん」


「ん。今日はリベルの誕生日だからね。おめでとう。」


 くっ、これだからイケメンは。今年10歳になるグレイは寝起きだというのに輝かんばかりのイケメンスマイルで微笑みかけてくる。本当に同じ血筋なのだろうか、敗北感。


「ありがとう、兄さん。嬉しいよ」


「ほらグレイ。早く食べてしまいなさい。うちの賢者様が早く教会に行きたいそうだぞ?」


「ふふ、リベルは賢者様か。これはゆっくりしちゃいられないかな?」


 僕を賢者様と呼ぶのを気に入ったらしいルーグがグレイを急かす。

 その揶揄い方はどうなのだ父よ…




 ――――――――――




 そしてなんやかんやで家を出るのが10時頃になった。

 ゆっくりしちゃいられないらしかったグレイはゆったりと食べるし、母さんはマイペースに洗濯物を干していた。

 化粧に時間掛けるじゃないのかと思うこともあったがその時に

「前にリベルさんもグレイさんも『お化粧しなくても綺麗だよ。』って言ってくれたじゃない?それに、ほらほら、母さんってまだまだ若いんですからね」

 って言っていたし実際そこらの女性と比較しても普通に綺麗すぎる。寧ろ周りはケバすぎるくらいだ。自慢の母さんである。



「それで教会に行って何すれば魔法がつかえるの?」


 久しぶりの家族全員での外出だったが僕は魔法の事しか頭になかった。


「何って。教会に行って水晶に手を翳すんだ。そうしたらスキルがもらえるからな、うちの賢者様は何がもらえるかな?」


 まだそのネタ引っ張るのか…


「父さんは盾術スキルで騎士になったがグレイは剣術スキルだからなぁ。この歳であれだけの剣が使えるんだ、将来がたのしみだよ。」


 なるほどスキルってのがそこまで影響するのか。本では一応読んでいたが少ししか触れていなかったし人によって千差万別、そこまで気にするものじゃないと思っていた。


「父さんは言い過ぎじゃないかい?ボクはまだまだだよ。それよりもリベル、欲しいスキルとかはないのかい?」


 欲しいスキルか…何だろう、魔法系でチート出来そうなら何でもいいかも


「そうですね、魔法系であれば何でも…本音を言うとそれこそ賢者が使うようなものが」


「うんうん、そうよねぇ。リベルさんは将来有望ねぇ。なんたって賢者様ですもの!」


 母さんが楽しそうにしている。期待が重いようではあるが、正直僕なら実は…みたいな展開ないだろうか?これでも転生者だし。





 そんな事を話しながら遂に教会に到着だ。ここで僕はスキルを手に入れてチートへの第一歩を踏み出すのだろう。胸が躍るなぁ!


「さあリベル。こっちに来て、手を翳すんだ。」


 ルーグが手招きする。奥の方に教会の人らしい人影もあるしどうやら手続きを終わらせた様だ。



 家族みんなが見守ってくれている中、僕は水晶に手を翳す。

 水晶から暖かいような光が広がってくる。

 なんだか水晶から、というより大地から、世界から力が注がれている感じだ。これがスキルとか何かしらの力なのだろう。

 暫くそうしていると頭の中に文字列が幾つか浮かび上がってきた。

 その中で気になったものは……『録音』??

 スキルだよな?え?音を録ると書いて録音?ボイスレコーダーとかの?






「何に使うんだよこれーーーーー!!!」





 僕が叫んだ瞬間、水晶今までとは比にならない位の光を発し



 僕はその場で倒れた。

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