12話

 小汚い奴隷の少年が、謁見の間に転がり込んできた。

 血塗れで、足も引きずっている。衛兵と格闘したのだろう。


「王様、お嬢を助けてくれ! お嬢は、あんたの言葉しか聞かないんだ!」


 その場の誰もが、何事かと目を丸くした。事情が読めないのだろう。

 けれど、メケドだけは、少年奴隷の言葉を正確に理解していた。少女は、メケドの言葉しか聞かないのだと。


 メケドの策謀は、失敗に終わった。

 少女の悲観が、予想以上に酷かったからだ。


 メケドの計画では、絶望した少女を人として慰め、少しずつ自分を意識させる予定だった。自分を、ひとりの人間として、認識させたかった。

 少女を魔から救ってやると称して、奴隷を殺してみせるパフォーマンスまで考えていたのだ。


 ところが、祈りを禁じられた少女は、その場で自殺を図った。

 神としてのメケドが少女に与えた影響は、彼女に自死を決意させるほどの威力を持っていたらしい。


 大事には至らなかったが、少女は床に臥せったまま、回復する兆しがない。医者によると、本人に生きる意志がないのだと言う。

 このままでは衰弱死を待つばかりだと宣告され、メケドは、苦渋の決断をした。


 力なく横たわり、ぼんやりと瞬いている少女の瞳を、じっと見つめる。視線が絡んだのを確認して、メケドは口を開いた。


「娘よ、今一度、神への誠意を示せるか?」

「神様、私は、あなたの奴隷です。魔の祝福よりも、あなたからの厳罰を、私は望みます」


 メケドにできたのは、神として、少女に赦しを与えることだけだった。

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