10話

 メケドは、少女の中の幻想を壊したかった。

 神というフィルターが掛かっている限り、少女は、決して自分を見ない。


 自分が神ではないと証明するには、どうすればいいのか。何日も考え続けていた彼は、名案を閃いた。


 手始めに、奴隷を彼女の世話役にするよう、部下に命じた。信心がなく、できるだけ年の近い奴隷を選ぶよう言いつける。

 それからは、少女と奴隷が親しくなるのを待つ。気が合わないようなら、別の奴隷に変えればいい。

 少女と奴隷の様子を、メケドは逐一、部下に報告させた。


 計画は、順調だ。そろそろ頃合いだろう。

 もはや日課となった少女からの祈りを、メケドは途中で遮った。


「もう、お前の祈りは受け取れない」

「……神様?」


 少女の顔に、怯えが走る。震える声が、不安を示している。彼女がこの城に来て、初めて見せた、負の感情だ。

 手応えを得たメケドは、少女の心をえぐる言葉を放った。


「お前の祈りには、邪念が混ざっている」

「そんなはずはっ」

「神を否定するか?」

「いいえ、私はあなたを信じています」

「では教えてやろう。お前は、神を信じぬ者と交友を持ったな? そいつは魔を飼っている。だから、お前の祈りは穢れたのだ」

「あっ」


 幻想を壊すだけなら、神を消す必要はない。

 少女を絶望させれば、事足りるのだ。

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