9話

 ロルグルが少女の世話を始めて数日、彼はすぐに、彼女の奇妙さに気がついた。明らかに、会話が噛み合っていない。


 常識が違うとでも言おうか。

 身分の差が常識の差になることは、確かにある。けれど、ロルグルと彼女の差は、そんな程度ではなかった。

 きっと、見えている世界が違う。


「じゃあ、お嬢は、本当に自分が神と結婚したと思ってるわけ?」


 二日目には、敬語で話すのをやめた。

 言葉遣いを気にしていたら、彼女との会話が、更に成り立たなくなってしまう。彼女も気分を害した様子はないから、きっと問題ないはずだ。


「神様が、私の祈りを受け取ってくださいました。ですから私は、神様の許へ、お仕えに参ったのです」

「祈りが届いたなんて、どうしてわかるのさ?」

「前のシスターに教わりました。神様のお与えになった試練を、私が乗り越えたので、神様の許へ行くようにと」

「それは騙されてるよ! お嬢は、王様への貢物なんだ。要するに、生贄だろ?」

「神様は、生贄など要求しません。あれは、最も失いたくないものを差し出すことで、祈りの重大さや覚悟を証明しようという、人間の自己満足に過ぎないのです。神様が求めておいでなのは、正しい祈りだけです」


 ロルグルは、彼女の価値観を理解しようと、いろいろな質問を投げかけた。

 ところが、彼女の話は、何もかも神様につながってしまう。好きなもの、嫌いなもの、やりたいこと、欲しいもの、全てに神様が関わっている。

 しかも、彼女は、自分の考えを曲げない。心底、自分の世界観が正しいと、信じ込んでいる。


 ロルグルは、いまだに「シスター」と呼ばれていた。

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