6話

 メケドは、少女を挫折させようと、あらゆる策を練った。

 横柄な態度を取り、罵詈雑言を浴びせ、肉体的な苦痛も与えた。

 怒鳴る、殴る、無視する。時には徹底的に甘やかし、次の瞬間には冷遇する。そんなことを、幾度、繰り返しただろう。


 けれど、少女の態度は、全く変わらなかった。

 メケドを神と呼び、祈りを捧げ、愛していると囁き、全力で尽くす。その態度が気に食わなくて、メケドが罵倒する。それすら大切な言葉であるかのように、少女は感謝を伝えてくる。

 堂々巡りだ。


 そんな日々の中で、ふと、メケドは考えた。

 なぜ、自分は、こんなにも少女に固執しているのか。


 少女が信じているのは、神であって、メケド自身ではない。こんなにもメケドに忠実でありながら、その実、メケドの意思など、まるで気にしていない。

 それが腹立たしいから、痛めつけたくなる。


 ただ祈りたい。

 それだけなのだ、彼女は。


 神とは、人の自己満足のために、人によって作られた象徴だ。

 彼女にとっては、信じ、愛し、捧げ、感謝するだけの相手。神に人格は必要ない。意思も、姿形も不要。絶対的に強大で、不可侵な存在であれば、ほかは全て些末事なのだ。

 だから少女は、メケド自身を必要としないのだろう。


 そして、メケドは気づいてしまった。

 自分は、少女に、人として見て欲しいのだと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る