5話

「お前は何に祈っているのだ」


 少女の表情を不審に思ったメケドは、疑念を隠すことなく問い掛けた。


「あなたに祈りを捧げています、神様」

「俺を神だと言うか」

「はい。あなたは私の神様です」


 この問答で、彼は崇拝の意味を理解した。

 隣国の意図は判然としないが、敵意があるとは考えにくい。悪魔のご機嫌を取るべく迷走した結果だろうと、彼は結論づけた。


 それにしても、悪魔と呼ばれる男を神と崇めるなど、なんという皮肉か。不快感を威圧に変えて、メケドは少女に言い放った。


「俺は、お前を救ってなどやらんぞ」


 少女にとって、できるだけ衝撃的な言葉を選んだつもりだ。しかし、メケドが望んだ成果は、得られなかった。


「心得ております、神様。私のすべきことは、正しく祈ることです。信じ、愛し、捧げ、感謝し、あなたに誠心誠意お仕えします」


 この返答には、さすがのメケドも絶句した。同時に、この少女を試してやりたい欲求が膨らむ。

 少女は、神と崇める男からの理不尽な要求に、どこまで耐えるのか。

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