4話

 大陸の半分以上を牛耳っている男、メケドは、悪魔の化身だと恐れられている。


 メケドは、多くの命を犠牲に、王の座を手に入れた。先王に反旗を翻し、幾度も苦汁を舐めながら、死闘の末に奪い取った王位だ。

 それからは、自らの力量を示すため、近隣諸国を次々に蹂躙した。卑劣な手を使ったことも、数知れず。


 そんなメケドの許に、隣国からの貢物として、ひとりの少女がやってきた。

 こうした貢物は、少なくない。

 この城では、各国から贈られた姫たちが暮らしている。名目は妃候補だが、実質は捕虜である。


 メケドは悪魔と呼ばれているが、女性を弄んで楽しむ趣味はない。貢物を要求したことさえない。

 けれども、近隣諸国は、勝手に悪魔の趣向を邪推し、あらゆるものを送りつけてくるのだ。


 中でも、この少女は異質だった。

 部下の報告によると、「王を崇拝するよう教育したので、如何様いかようにもお使いください」という触れ込みらしい。

 謁見の間に向かいながら、そこまで言うのなら奴隷にでもしてやろうかと、捻くれたことを考えていた。


 陰険な計画を立てるメケドを迎えたのは、一心に祈りを捧げる少女。

 今更、神に祈ったところで、悪魔に売られた現状は変わらない。内心で嗤いながら見下ろしていたが、少女は一向に祈りをやめない。

 どこが「王を崇拝するよう教育した」というのだ。少女は悪魔に怯え、神に縋るばかりではないか。


 腹が立ったメケドは、少女に顔を上げるよう命じた。

 こんな失態を犯した隣国に、どう文句を言ってやろうかと思考を巡らせる。


 ゆるゆるとメケドを見上げた少女の表情は、喜びに満ちていた。

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