08)コラム①:悪役令嬢選手権

 さあ、いよいよ今年もやってまいりました【悪役令嬢選手権】ですが、今年の出場選手はいかがでしょうか、解説の女神様。


「今年も粒ぞろいの揃いも揃って似たようなパターンの悪役令嬢が集まっています。テンプレ化もここまで進むと様式美として成立するんですねー」


 辛辣な前置きありがとうございます。おおっと? 開場からまだ数分しか経っていませんが、すでにゼッケン番号一番の悪役令嬢がなにか騒いでますね?


「では、女神わたし謹製の集音で聞いてみましょう」


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「ちょっと! どうしてワタクシがこんな女達と一緒に並ばされているのかしら! せめて椅子くらい用意しなさいよ、主催者! まったくもって不愉快ですわ!」

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 おやおやこれは出だしから飛ばしてきますね。ゼッケン番号一番の悪役令嬢、すでに悪役っぷりで他の令嬢にマウンティングしています。


「みんな同じセリフを口にしたくないという高いプライドがあるので、他の悪役令嬢のセリフを奪う良い手です」


 なるほど、絶対に周りと同調してやるものかという反骨精神が高い悪役令嬢たちは「そうですわそうですわ」みたいな取り巻きのザコ令嬢みたいな真似はしないんですね。


「はい。あ、御覧ください。ゼッケン番号二番と三番です!」


 おおっと美女二人が平手打ちの応酬を始めています。相手を叩いた後には、叩かれ返される構えで待ってる所が素晴らしい。まさに打って打たれての応酬です。さて、これの切っ掛けは何だったのでしょう?


「では、女神わたし謹製の録画で見てみましょう」


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「なんですの、その人を見下したような目は。このワタクシをそんな目で見るなんて浅はかすぎましてよ」


「あら。あなたなんて眼中にも入っておりませんでしたわ。自意識過剰すぎなのではありませんこと?」


「完全に目がおうっとったやないけ!」


「見とらんっち言いよろーもん!」


「シバくぞワレ!」


「しゃーしかったい貴様きさん!」

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 いやー、ビンタの応酬は続いていますが、あの二人はどうなんでしょうか女神様。


「悪役令嬢が方言丸出しで罵り合うのはよろしくないですね。審判の判定が気になります」


 おっと、審判たちが旗を上げていますが、全員✕ですね。両者失格の模様です。ゼッケン番号二番と三番の悪役令嬢は残念ながらここまでとなりました。


「残念です。彼女たちは国に帰って没落ルートを辿っていただくことになります。場末の娼婦に落ちぶれたり刑場の露と消えるのです。しかし今回の二人は、領地から逃げようとしたけど野盗たちに捕まり死ぬまで犯されそうになったところを隣国の王子に救われて改心するパターンで……」


 おおっと! 女神様の解説中ですが、ここにきてゼッケン番号四番がどこからか湧いて出てきた皇太子から婚約破棄宣言を受けております!


「定番の演出ですね。皇太子の傍らにはヒロインが……あれ? あの虫も殺せないような顔をしたヒロイン、ゼッケンを付けていませんか?」


 おお! あれはゼッケン番号五番! 今年の最有力悪役令嬢候補です! ヒロインに見せかけて実は悪役という彼女は、本当の主人公である悪役令嬢を実にわかりやすい手口で陥れますが、最後はその所業がバレて他の悪役令嬢と同じように倍返しされて消えていく定めの人物です!


「しかし対する四番の悪役令嬢は真の主人公タイプではなく、ちゃんとした悪役ですね?」


 悪役令嬢VS真の悪役令嬢。これは熱いやり取りが期待ですそうです。


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「皇太子さま。どうして私が婚約破棄されるのでしょうか。まさか隣りにいるその平民っぽい女にうつつを抜かしたとでも? いえ、それはいいのです。皇太子たるもの世継ぎを作るのがお役目ですから妾となる女が何人いても私は一向に気にしません。ですが、私を捨ててその者を正妻に据えるというのなら話は別です」


「皇太子さまぁ~。あの怖い女の子が私のことを虐めるんですぅ~。この前も屋上から突き落とされて大変だったんですぅ~。処刑してください~」


「なんで屋上から落とされてピンピンしているのかしら? むしろあなたとはここで初めてお会いしましたけど?」


「見てくださいよ皇太子さまぁ~ん。あの女の子、下品に胸元を広げたドレスを着てますよねぇ~。きっとぉ、いろんな男の人の股間を挟んでシコシコしてるタイプですよ~」


「あなた、可愛らしい言い方ですごく下品なことを口にしている自覚あります? それに近世ヨーロッパのドレスはみんなこうやって胸元を広げて見せて寄せて上げてするものです」


「やだぁ~、怒ってるぅ、こー↓わー↑いー↑↑。助けて皇太子さ───ぶべらっ!?」

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 おおっと!? どういうわけかゼッケン番号五番の真の悪役令嬢が秘孔を突かれたように爆散したァー!!


「すいません、我慢できなくって」


 これは意外! なんと実況中の女神様の仕業でした! ゼッケン番号四番が爆散した五番の内蔵を浴びて意識を失ってリタイヤしましたが、これは審判的にどうなんでしょうか?


 ……全員✕です! 悪役令嬢たるもの、ライバルの内蔵をぶちまけられても平然としていなければ認められないようですね。


「あちらを御覧ください。六番と七番が古神道と黒魔術で戦っていますが、どちらも闇落ちして淑女たり得ない格好になっています」


 なぜ闇落ちするとドレスの裾がボロボロになるのかわかりませんが、両者ともドレスを翻して太ももやパンツとか丸出しで呪術合戦しております! これは視聴者の皆さんにはお見せできませんので天の光で要所要所を遮らせていただきますことをご了承ください。


「コンプライアンスというやつですね」


 内臓ぶちまけは良いのにどうして女性下着は駄目なのか。男の下着姿は普通に認可されるのに女性下着は駄目な理由は!? 本当にどうしてなのか全くもって納得行かない処置ではございますが、これもたった一握りの声がでかいクレーマーと時勢のせいということでご納得頂くよりありません。


「審判が✕の旗を上げましたね」


 どうやら六番と七番はコンプライアンスに引っかかったようです。ボロボロになったドレスからはみ出した乳首はNGです。残念ながらNGです!


「あれ? あちらを御覧ください。あの方は何をしているのでしょう?」


 おおっ、ゼッケン番号八番が会場内で畑を耕し始めました!!


「なるほど、あれは落ちぶれた悪役令嬢が辺境で自活して生きる様を表現しているようですね」


 落ちぶれている割には随分楽しそうですね。


「はい。貴族社会のしがらみから解放された悪役令嬢は、殆どの場合が本来の優しく美しい女性に立ち戻って幸せに暮らすという統計が出ています」


 そう考えると、断頭台に乗せられた悪役令嬢も本当は善良だったということでしょうか───おおっと! 八番が耕した畑を九番の悪徳令嬢がガニ股になって踏み荒らしております! これは一体どういうことでしょうか!!


「悪役令嬢選手権なのにイチ抜けして平和な生活をエンジョイしているのが許せなかったようです。確かに競技内容に反していますね」


 審判の判断は………✕。バツです! 畑の八番は失格となりました! ここで九番には○判定が。一歩リード!


「畑を踏み荒らすガニ股の仕草が悪役っぽくて高評価だったようです」


 さて。ここまでに一番と九番が残りましたが、今のところ本命は九番というところでしょうか女神様。


「最初に牽制しておきながら何もせずに扇子で口元を隠してニヤニヤしている一番の動向が気になりますね。ほら、動きましたよ!」


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「あら。随分質素な装いですこと。畑を踏み荒らす粗暴さといい、どこの田舎娘かと思いましたわ」


「あらあら。派手に着飾って素材の悪さを隠そうとしているのがバレバレですわよ」


「あらあらあら。お召し物に汚らしい土がついていましてよ?」


「あらあらあらあら。扇子で口元をお隠しあそばれているのはお顔に自信がないからかしら。その点、私は多少の土埃が付いていようと元が美しいので問題にもなりませんけど」

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 舌戦が繰り広げられておりますが、審判は動きません。このままでは土のついた九番が勝利してしまいますが───おおっと! みなさん御覧ください! 爆散した五番の肉片にまみれていた皇太子に寄り添って、白い綿のハンカチで「おいたわしや」ってやっているのは十番! 十番の悪役令嬢です!


「悪役令嬢同士の争いには加担せず漁夫の利を狙っているようです。しかも皇太子の腕にぴったりと自分の胸を押し付けてあざといですねー」


 それに気がついた一番と九番が標的を変える模様ですが、ここで去年の覇者、クィーン・オブ・悪役令嬢さんをゲストに迎えたいと思います。どうでしょうか、この試合展開は。


「そうですわね。悪役令嬢たるもの、なんのために存在しているのかを理解しなければなりません」


 と、言いますと?


「悪役令嬢は悪役を演じきることが努め。ヒロインの株を上げて最後にスカッとザマァなやられ方をすることこそが美徳なのです。その点で言うと今年の皆様はイマイチご自分の立場を理解しておられないようで」


 これは手厳しい。しかしヒロイン不在のこの会場でそれをどうやって………おおーーーーーーーーっと! 一番! 一番の悪役令嬢が白目になって泡を吹き出しながら倒れました!


「ガニ股の九番が毒を盛ったようです」


 さすが悪役令嬢! どうやって相手の口に毒を流し込んだのかサッパリわかりませんが、審判は○の旗を上げています! これは九番の独走になるか!


「あら、皇太子が刺されましたね」


 十番! 十番が皇太子をペーパーナイフで刺して自分も手首を切り始めました!!


「破滅型のメンヘラ令嬢のようです。手首を浅く切ったところで死ぬほどの出血はしないので、心中を装った『私、不幸なの』プレイでしょうか。趣旨から外れていないか心配です」


 審判の判定は✕。十番は失格となりましたが、心配して声をかけた審判に潤んだ瞳を向けています!


「頼れる相手の魂までしゃぶり尽くして捨てていくメンヘラの基本形ですね。あの審判、苦労しますよ」


 ということは本年度の悪役令嬢は九番! 九番に決定しました。ヤマもなくオチもなく意外性も感動もなにもないこの展開に司会の私もビビっておりますが、時間も差し迫ってきましたのでご感想をいただければと思います。まずはクィーン・オブ・悪役令嬢さん。


「畑を荒らして毒を盛るというわかりやすい悪役プレイが功を奏したようです。敵対する相手は破壊せずにいられないという雰囲気が高評価だったと思います」


 ありがとうございました。ではシメに女神様。振り返っていかがだったでしょうか?


「あの九番の悪役令嬢……、実は男ので、他の悪役令嬢たちに殺されたヒロインだった姉の恨みを晴らすために参加したんですけど、このまま悪役令嬢の道に進んでいかれるのか心配です」


 え、マジですか? それ、令嬢じゃなくないですか?


「世間にばれないようにタマも取ってますし、令嬢でいいんじゃないでしょうか」


 そこまでして復讐を遂げた九番に盛大な拍手を! それではみなさん、また来年!

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