第33話:エルサレムの神殿ってどうよ?

 そろそろドーンと行くべきじゃないかなぁと、俺は思うわけだった。

 つーか、ここはベタニア村。俺は弟子のラザロを生き返らせた。

 俺、イエスは神の子であるわけだ。知らんけど。

 だもんで、人の命などもてあそんで、蘇らせたり、呪殺したりできるもんで、そんな大したもんじゃない。

 結局のところ、親父たる神の意思というものであるので、人がこのことをどー思おうが知ったこっちゃねえのである。


「あ―― どうよ、調子は、ラザロ」

「あばがばばば(生き返ったような感じです」

「そりゃそうだろう、俺が生き返らしたんだからよ―― で、死んでる間ってどんな感じ?」


 ラザロは濁った目でじっと考える。

 口からは黄ばんだドロドロの体液を漏らしていた。

 歯槽膿漏かもしれんなぁと、俺は思う。歯磨きは重要だ。


 しかし、ここ数日匂いがきつくなって、ラザロの周囲には常にハエがたかっている。

 ま、大きな問題じゃないけど。


「あがはばばばば(なんか、よー分からんお城があって、今から千年くらい先の世界をインチキ化したような世界に――)」


「へ~ なんかインチキくせぇな。夢だろそれ」


「あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ゛らめぇぇ――(そうかもしれません)」


「ま、いっかぁ」


 とにかく、俺はエルサレムでデッカイ花火ぶち上げようと思うわけだ。

 ま、主だった弟子たちでも集めてちょっと相談するかな――と思う次第。

 なんで集めた。


        ◇◇◇◇◇◇

 

 ラザロの家――

 皆で飯を食いながら、ちょっと話をする。

 主だった弟子は全員集まっている。


 ラザロの体臭がちょっときついかなぁ――と、皆思っているだろうけど、優しいので言わない。

 とりあえず、今後の行動方針とか、いろいろと話し合っていくわけである。

 

「えー、君らさぁ、エルサレムてどう思うね?」


 はいっとペドロが手を上げた。

 

「はい、ペドロ君、ときどきシモン君」


先生ラビ! ここは一発締めないと駄目っすよ。あいつら舐めてますよ。俺ら舐めてますよ。ぶっ殺しますよ。先生!」


「まあ、まあ、気持は分かるが、もうちょっと穏当にね。で、誰をやっちゃうの?」


「サドカイ派のクソどもですよ! あいつら先生を悪魔の手先にしたいんですぜ!」

 

 ペドロの言葉に「そうだ、そうだ」の声。

 ラザロは「あばば」と言っている。

 ただ、ユダだけがジッとこっちを見ている。

 コイツ本当に大丈夫か? 俺ノンケだし、神はそういうの大嫌いだからね。マジで。


「そんなの放っておけばいいんだよ。問題はさぁ、そこじゃないし」


 俺の意図を汲んでくれる弟子がいない。 

 だいたい、サドカイ派の大司教あたりの玉を取るというのは、どう考えても現実的でないのだ。

 あいつらは、みんな論破してやれば済むのである。

 むしろ、俺の正しさを引き立たせる道化とも言える。


「え――、じゃあパリサイ派の律法学者っすか? あいつらうぜぇし」


「あいつらいいだろ、雑魚だもん」

「そうだな――、雑魚だなぁ……」

「ま、どーでもいいかぁ」


 これは俺が答える前に、弟子たちが自己解決してしまった。

 だいたい正しいので俺は言うことが無い。

 そこそこ弟子たちも成長しているのかと思うと感慨深い。


「あのね、問題は神殿な。あの神殿っておかしくね? って俺は思うわけだよ」


 大ヒントである。神殿で行われている「アレ」に付いて何も気づいてないとすれば全くもって度し難いのである。


「ああああ!! 先生、神殿は祈りの場ですね! そこで商売をしている奴らがぁぁぁ!」


「そう、それ! それだよ。あいつらアカンだろ。なぁ」


「そうですなぁ! なんとかしないといかんですよ。先生」


 弟子たちの多くが賛同する。


先生ラビ――」


 ポツリとイスカリオテのユダが言った。

 その声は池に投げられた石の波紋のように広がる。


「なに? ユダ」


「商人をどうするのですか?」


「どうもしない。ただ、あそこは祈る場所で商売する場所じゃないし、なんで暴利貪るの? あそで商売できる利権ってどうなってんの?

 そもそも、特定の商人が神殿で商売して特権的に利益を貪るってのは、神の教え的にもどうかと思うわけですよ。ユー アンダスタン?」


「なるほど…… しかし――」


「しかしもへったくれもねぇ! 先生がおっしゃってるんだ。やろうぜ! 叩き潰すんだ。奴らを神殿から追放し、正しい姿を取り戻すんだぁぁ!!」


 ペドロがユダの言葉を制し、利権商人へ制裁を訴える。

 その通り。金持ちは憎い。

 金持ちはどうせ、天国に行けない。

 ラクダが針の穴を通るくらいに無理。

 なもんで、制裁を喰らわせる。

 これは神の裁きなのだ。


「よし! そうと決まれば、明日にでも殴り込みじゃぁぁ!」


 俺のシャウトに、弟子たちが沸きあがる。


 すると、奥にいたマリアちゃんが香油をもってやってきた。

 俺のアンヨに香油を塗って、マッサージするのである。


「先生……」

「なんだよ? ユダ」

「……いえ、なんでもないです。ただ、その香油を買う金があれば貧しい者たちを――」

「アホウか、そんな金で救える貧乏人で何が変るの? 世界を救うんだよ。俺は。世界を救うってことは、そんな小さなことじゃないから。で、俺に香油を塗るってことは、世界を救うことになるわけだよ。分かる? わかってほしいよ。俺は」

「はい―― 私が浅はかでした。愚昧でした。愚かでした」

「いや、そこまで自己肯定感をボロボロにしなくてもいいだけどね」


 とにかく、世界を救う。人類を救済する。

 そのためには、祈りの場である神殿を本来の姿にせねばならぬのだった。

 俺はそれをやる気満々なのだ。

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