第32話:俺、弟子を生き返らせる
その後も俺に対する嫌がらせや監視はあった。
仕方ないのである。もはや有名税ちゅーの?
有能な人間ほど嫉妬に晒されるというもんなわけだ。
だから俺はサドカイ派あたりの「オマエは神の子なのか!」とか「救世主なのか」という質問も「うるぇバーカ!!」「死ね、呪うか? アホウが」と答える。
こんな雑な言い方でも相手は「ぐぬぬぬぬ」と黙るのだから楽な物だ。
周囲の民衆というか、エルサレムに参拝しにくる者たちも俺の味方になりつつあるからだ。
まあ、アホウを相手にからかうのも面白いといえば面白いが、それよりも俺にはやることがある。
説法のシャウトをするのだよ。人類を救うため。マジで。それが俺の使命だからだ。
最近はオヤジ(神)との連絡もとってないが、まあいつまでもオヤジ(神)頼りってわけにもいかんだろう。
オヤジ(神)に与えられた使命(しのぎ)を全うしなければならぬのだ。
オヤジ(神)の書いた絵図の実現のためにだ。
俺にも神の子という自覚が芽生えているのかもしれん。まあ、大きな声で「神の子」とは言わんけど。
「いいかぁぁぁ!! 持っているモンが、持ってないオマエらから簒奪する正当性はなんだ? 結局、神の名を借りて私腹を肥やして、いい生活しているのがいるわけじゃねーの? 誰とは言わねーけどさぁぁ! 己の#簒奪__さんだつ__#の正当性に神をもってきて、アホウかと、それで救われるか? あるわけねーだろ! バーカ。で、本来でれあれば大きな簒奪から民を守るべき存在が一緒になって簒奪する、二重の簒奪がユダヤの社会にあるわけだよ。マジで。どうなの。これ?」
俺の問いかけに「その通りだ!」という声が上がるのだった。
「とにかく、祈れよ。いいかぁぁ、祈れ! でもって神はよぉ裁くからなぁ、マジで! マジで裁くぞぉぉ、いいかぁ! 祈るしかねぇんだ! 銭金の問題じゃねぇ! 金なんざ、神の国にはもっていけねーぞぉぉぉ!! マジでぇぇ! 簒奪者には永遠の苦しみだぁぁ! 呪いだぁあぁ!」
俺の説法(シャウト)は大人気だった。
つーわけで、最近はパリサイ派もサドカイ派、遠くから監視して「じーっ」と見ているだけになっている。
ビリビリとエルサレム大気を震わせる俺の咆哮は、天の声となり、民衆の心の中に、神を現出させるのやもしれん。
まあ、知らんけど。
とにかく、アホウども死ね。金持ち、ブルジョア、司祭階級の屑どもがぁぁ!
ローマの支配に安閑とし、その利益構造のなかで権益を貪る屑どもめ!!
早くや焼かれて裁かれろと、俺は心の底から思っている。
そして、それは確実にやってくる。
ざまあだ。ひゃはははは!!
「ひゃはははははは!! いいかぁ! 金もっている奴が、神の国にいくなんて、ラクダが針の穴を通る様もんだぁ! つまりマジで無理! 無理ィィィ!!」
民衆も大爆笑して大うけである。
俺の人気もエルサレムでドカーンって感じなのだ。
◇◇◇◇◇◇
俺らは、エルサレム近くのベタニア村ちゅーとこに寝泊まりしていた。
ただ、最近はエルサレムにも俺の支持者が出始めていたので、そこで世話になることが最近は多くなっている。
「ちと、久しぶりにベタニアに戻るか」
エルサレムのパトロンは金持ちが多く、まあ待遇は悪くない。
しかし、なんか監視の目が多くて落ち着かねーというのもある。
「そうね。それがいいわ」
マリアちゃんも賛成する。
超美女。事実上の俺の嫁といっていいだろう。もはや。
どうにも、エルサレムだとマリアちゃんが夜の愛の営みに集中できないようなのだ。
愛し合うのはやましくはないが、それすら監視されているような気もするのやもしれん。
俺は気にしない。
むしろ「ああ、俺がマリアちゃんとやってるのを誰か覗いているのかなぁ」と思ってガンガンやると燃える。
悪くはない。げへへへへへ。
しかし、マリアちゃんの方が気が散ってしまうせいか、イマイチ感じないようなのだ。
俺の愛を身体の中にドバドバ流し込んでも普段より反応が静かだったりする。
「あ、あ、あ、ああ、あああ、らめぇぇ♥ イエスの愛が凄く熱いのぉぉぉ♥」
くらいの声しか上げてくれない。もっとこう、金髪を乱れまくらせ、燃えて欲しいと思う。
それだけが理由ではないが、とりあえずベタニアに戻ることにした。
エルサレムからは近いし。問題はない。
まあ、小さい村だが、ナザレよりはマシ。
この村出身の弟子もいるし、まあ、居心地は悪くない。
エルサレムのような監視の視線もないのだ。
俺はマリアちゃんに、脚を洗ってキレイキレイにしてもらう。
で、世話になるパトロンの家に上がって、ご馳走になる。
俺は早速ヒツジのモモ肉をもしゃもしゃ食っていた。
最近は、よく腹が減るのだ。
パトロンは俺に宿を用意し、そして食事も用意する。
豪華ではないが、まあ心づくしは感謝すべきであり、こういう人間は救われ欲しいなぁと思う。マジで。
しかし、救われるかどうかは俺は本当のところよー知らん。それはオヤジ(神)が決めるから。
子に出来るのは、説法だけ。
しかし、オヤジ(神)は自分を大好きな人間は大好きなので、救ってくれるんじゃないかなぁとは思う。
でもって、オヤジ(神)の子。つまり俺に対し良い態度で接する者には確信があるのだと思う。
救われるという確信が心のどこかにあるのではないかと思う。
で、その確信はどこから来るかちゅーと、オヤジ(神)から来る。
こう、なんか波動的なモノ? そんな感じで心にビリビリ来るんじゃないかと思う。
だから、そいう態度の人間は救われる。
俺はそう思うのよ。マジで。
ただ「思うだけ」なので、本当かどうか知らん。
なにせ相手はオヤジ(神)だから。
理不尽な(人の尺度で測れない)存在だし。
まあ、裁きの時に、焼かれたらごめんな。でもそれ、俺のせいじゃねーから。
俺はそんなことを思いながら、ご馳走をパクパクと喰うのだった。
俺が大好きなイチジクの実を手にしたときだった。4つ目。
弟子の一人がやって来てきた。
「先生! たいへんです!」
「なんだよぉ! 飯食ってんだけどぉぉ! マジで」
「ラザロが死んでます」
「ラザロ? え?」
弟子か?
最近、弟子が多くてよく覚えていられない。
「この村に住んでいる弟子です。先生」
「マジ?」
「本当です」
ユダが教えてくれた。こいうことは、細かく覚えている奴なのだ。
「死んだのかぁ…… なんでだ?」
「先生、まずはラザロの家に行くべきでは」
「ん~ そうだな」
俺は手に取ったイチジクを口の中の放り込み、もしゃもしゃしながら、出かけたのだった。
死んだという俺の弟子。ラザロの家に行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ローマ兵のローキックに体勢を崩され、頭が下がったところを、右フックをテンプルに……」
涙ながらに語るラザロの妹。
「で、死んだの?」
「いえ、その後、兄は…… タックルをかまし、ローマ兵にマウントパンチを…… 結果はドローでしたが、その後、風邪にかかって、死にました。う、う、う、う、う、うわーん」
泣き崩れる妹。
「ゆるせねぇ! ローマ兵!」
ペドロが怒る。
いや、それはローマ兵は悪いかもしれんが、死因じゃねーんじゃね? しかもドローだろ。
と、俺は思うが、弟子の手前口にはしない。死者に鞭打つ行為だから。
「ま、生き返らせればいいんじゃね?」
死んでも生き返らせればいい。ホイホイと。手軽に。
それは俺が神に与えられたチートの奇蹟の能力。
すでに、俺は、子どもを生き返らせたりしている。
「先生…… でも、兄が死んだのは4日前でもう腐っているかもしないのです――」
俺らがエルサレムに逗留中に死んだのだろう。
死んで4日経過か……
子どもを生き返らせたときは、死んですぐだったが……
4日かぁ…… この季節だからなぁ。腐りやすいよなぁ……
しかし、やらねばならない。
それが出来ないなどと、俺の#沽券__こけん__#に係わる。
「先生、可能なのですか?」
ユダが俺に聞いてきた。なんかこう、探る様な目つきが気になる。
俺が子どもを生き返らせた話はコイツにもした。
そのとき、一番、話に喰いついてきたのはコイツだった。
コイツはインテリだ。要するに「死者が生き返る」という俺のチートの力をイマイチ信じていないのかもしれん。
俺の弟子なのに。
もう、ペドロあたりは「先生は生き返らせるんだろう」って顔している。
他の弟子も似たような感じだ。
コイツだけがちょっと違う。インテリだから…… 本当にそれだけか?
「生き返らせるぜ、俺の奇蹟の力でよぉぉッ!」
俺はもう一度、力強く宣言するのだ。
それでも、ユダの視線には変化はなかった。
つーことで、俺はラザロが葬られた墓に来たのだ。
墓は横穴を石でふざいである。でかい石だ。
「石をどかしてくんね」
「分かりました! 先生。おら、野郎どもどかせ! 石をどかすんじゃ!!」
ペドロが指示を出すと、屈強な俺の弟子たちが石をどかす。
コイツらであれば、ローマ兵ごときにドローで終わらなかったかもしれん。
「先生どうぞ!!」
墓穴が開く。この奥に死体があるわけだ……
なんか、中に入るのはヤダなぁと思った。
それに、穴の奥からは確実に腐臭が匂っている。
なんか、弟子たちは俺が墓に入っていくかと思っているようだ。
やなんだけど。なんか死体の腐った匂いのするとこに足をいれたくない。
「おらぁぁ!! 生き返れぇぇ! 根性ださんかい! ワレぇぇ、俺の弟子やろうがぁぁ! 俺は復活であり命なんだよぉぉ! マジで。いいか、俺を信じる奴は生き返るんじゃぁぁぁぁ!!」
穴に向かって俺は吼えた。
これで生き返らなかったら、俺に対するご信心が足らないということにしようと思った。
穴の奥、影になった部分でモゾリと何かが動いた――
「か、かか、かゆ、うま……」
出てきたラザロだ。ちょっと肌の色が黒いなぁと思ったがちゃんと動いている。
生き返ったのだ。
「おお!! すげぇ! さすが先生だぁ!!」
「あ、あ、あ、あ、あっががが、かゆ…… うま……」
「兄さん! お兄さん! 生き返ったのね!」
「あがががが…… が、が、が、が……」
体の周囲にはブンブンとハエが飛び交い集まりつつあった。
「あばがははば?、うま、うま、かゆ、ばばばばば?(私はいったい?、先生、先生、これはいったい?)」
「あ、俺が生き返らせた。まあ、お前にも根性あったのも大きいな! 偉いぞ! ラザロ!」
「あががが、あば、うま~(先生、ありがとうございます)」
4日放置されていたせいか、ちょっと滑舌が悪くなっているようだった。
それに、体臭もキツイ。しかし「オマエ、臭いよ」っていうと人は傷つく。
だから、俺は指摘しない。弟子に対する気づかいだった。
「これが…… 奇蹟ですか……」
ユダがちいさくつぶやいていた。
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