第34話:エルサレム神殿の商人どもを叩き出せ!
「なに? ロバしかないの? ラバは? ここはやっぱラバでしょ。マジで」
俺は弟子たちに言った。
「昔のソロモン王の事例に則ってラバって言ったよな。演出てのが必要なんだけど」
「しかしですね~ 本当にラバいないんですから。
弟子たちはベタニア村で一頭だけいた貧相なロバを引っ張ってきたのだった。
本来であればここはラバ一択なのだ。
「しかたねーな。そこは俺のカリスマでカバーというか、ラバでなくロバであるというのが、なんかこう、聖なる理由があるというか、でっち上げが必要かもしれんなぁ」
俺はいろいろと考える。今回はまず、エルサレムの神殿に殴りこみをかけるのが最優先である。
この殴りこみにおいて、俺らは悪徳商人を叩きだす正義であるわけで、正しい祈りの姿を取り戻す、神への忠誠心を示す行為なのですよと、弟子たちには強く言いたい。
まあ、分っているのか、分っていないのかは分らない。
が、威嚇や破壊行為や暴動に関しては、散々経験をつんでいるので大丈夫だと思う。
というわけで、俺はラバではなくロバにのってエルサレムに入る。
それはソロモン王とはまた違う存在であるんだよという、メッセージが込められている。
と――いうことにする。
◇◇◇◇◇◇
「ホサナ、ホサナ、ホサナァァッァ、ほーれ、かっ飛ばせホサナ、右へ左へ救世主、かっ飛ばせぇ、ホサナ~」
「これはもう、ソロモン王の再来やで!」
「ほんまや! ソロモン王の再来が、ユダヤの救世主になるんや!」
「今までも散々、預言者が『ソロモン王の再来』ゆわれとったけどなぁ~」
「なにいっとんのや! イエス様こそ『ソロモン王の再来』やで! 知らんけど」
ホサナ(ワシらを救え)コールの中、俺はラバではなくロバに乗っていく。
周囲は弟子たちが固めている。先鋭的で凶悪な弟子たちであり、神の子たる俺の忠実な
「やったるでぇぇ!」
なぜか、ペドロの口調がいつもと違うが、興奮のためであろうと思う。
とにかく、神殿だ。
神殿の特権商人どもの設置した出店を徹底的に破壊するのである。
破壊、地に騒乱をもたらすのも、人類救済のためなのだ。
それが、俺の使命でであり宿命。
「出店どもを破壊せよ! 破壊せよ!」
「お――!!」
気勢をあげ、俺と弟子たちは神殿へと突撃したのであった。
◇◇◇◇◇◇
「神殿で商売するんじゃねぇ! この利権商人どもが!」
ドガッと、弟子たちがハトのかごを蹴飛ばして破壊する。
ハトたちが蒼空へ飛び立っていく。爽快である。
「やれ! なぎ払え! 根こそぎ破壊しろぉぉぉ!」
俺は徹底的な破壊を望む。
この神殿は祈りの場であり、祈りは平等で誰でも祈れなければならぬ。
だけども、神殿に巣食う、利権商人どもが、全く持ってどうしようもないのだ。
ハトとかの供物を売ったり、両替をしたりして暴利を貪っている。
ここで、供物を買わねば、神殿で祈ることすらできぬだ。
こんなアホウな話があるだろうか。
確かに、あるかもしれん。
供物に貴賎はあったりするのかもしれない。
でも、それを決めるのは神であって、愚昧な利権商人どもではないのだ。
「てめぇ! なにしやがる」と、利権商人が暴れるが、屈強な俺の弟子がぶん殴って黙らせる。
数と圧倒的な暴力で徹底的な破壊を行うのである。
この破壊の中からこそ、新しい神殿が生じ、神の国が近づいてくるんじゃないかな――と、思うわけですよ。
「お前ら、聞け! こんなところで供物を売りさばき、暴利を上げ、純粋な祈りを妨げる。これは神の望むことなのかッ!」
俺の叫びが神殿を振るわせる。
「てめぇ! インチキ救世主がぁ! とんでもねぇことしやがって!」
ふひゅッ
俺は、抗議してきた商人との間合いを詰めた。
がつん! とハンマーで頭を殴ってやった。
今回は徹底した破壊のために、俺は昔の商売道具であるトンカチを持ってきていたのだ。
ローキックよりも効果的だ。
「ひひひひひ!! 文句のある奴はかかってこいよ! え――、いいか。この俺のトンカチの餌食になりたければなぁ!!」
俺はブラブラとトンカチを周囲に見せながら、破壊を続ける。
出店を破壊し、再起不能にするのである。
そして、平等な神殿の創出が、俺の救世主伝説の始まりとなるのであった。
なるはずであったのだ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます