第5話 番外編~木村燈の過去~前編

私は木村燈。アニソン歌手”AKARI” としてや、作曲編曲家としても活動している。


昔の私からしたら、まさか今こんな音楽の仕事をしていて、ステージに立って歌ってるなんて、思いもしてないだろう。

音楽やってなかったら、私の人生、確実に腐ってた。


音楽ってこんなにも聴いてる人にも自分自身にも、こんなに力をくれるなんて「魔法の力」と言っても過言ではない。


それにまさか仕事現場で偶然、詩乃と再会して音楽の話ができるなんて思いもしなかったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


私の家庭環境は、酷いものだった。

家は父母、兄と私の4人家族。(あれを家族とか呼びたくないけれど。)

この体にはあのろくでもない人間どもの血が流れてると思うだけでゾッとする

母は精神的に不安定で、理由も分からずいきなり殴ってきたり、「お前なんか産まなければ良かった」「死んでしまえ」など暴言を吐いてきたりしてきた。

ひどい時には包丁を突き付けてきたこともあった。


だが、ある日は逆に気持ち悪いくらい優しくて「ごめんね。ごめんね。」と涙を流しながら何度も誤ってきたりする日もあって。


本当の母はいつも暴言暴力をはたらく方なのか、この優しい方なのか分からなかった。どっちを信じればいいのか分からなかった。


これのせいもあって、私は中々母から離れられずにいた。


父と母は毎日喧嘩していて、いつも家の空気は最悪だったし(逆に平穏だった日はなかった)、

私が2人の喧嘩を止めようとしても「うるさい黙れ」だとか「お前にだけは言われたくない」とか、兄には甘かったのに私への当たりは特にキツかった。


父がその後出て行って、兄は夜遅くまで遊び、家にいる時間が少なくなって、

母と私だけになる時間が多くなって、私への当たりがますますヒートアップしていった。


そして、ある日母がいつものように癇癪起こして包丁を突き付けてきたとき、

「燈、死んでくれない?あなたを殺したら私もすぐ追いかけるから。」


いつも頭おかしいけど、今回だけはこれはマジでヤバいと思った。


この頃、私は幼くて「死ぬ」とか「殺す」とか言葉の意味があまり分かっていなかったが、これは本当に危ないと本能的に命の危機を感じた。


母が包丁を振り下ろした時、ややかすり傷を負ったが家から飛び出して必死に逃げた。


ひたすら逃げて、ここがどこか分からなくなったくらい遠くへ逃げた。


そこで、付近で見つけた公園でその日は雨のしのげる屋根のあるベンチで夜を明かした。


翌朝、目を覚ますと綺麗な白い壁に囲まれた部屋にふかふかで優しい匂いのする布団の中にいた。



                          続く。
























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