第3話 橘綴の親友と秘密

私は橘綴こと斎藤詩乃。小説家である。


今私は「ハナガタリ」という小説を執筆中なのだが、連載中でも作品が完結した後も、読者さんからお褒めの言葉と応援メッセージの書かれたお手紙をいただく。


(「すごい…こんなに手紙が………」)


応援してくださる人がいるとこんなにも頑張ろうと思える気持ちがこみ上げてくるなんて、本格的に小説家として活動する前までは考えられなかった感情だった。


今はファンタジー系の小説を主に書いているが、私が小説を書こうと思った原点であるラノベ小説を気分転換に時々、ラノベの定番の異世界ファンタジー系や転生系を書くこともある。


私は一つのジャンルに縛られた固定概念は好きではないため、仕事としても趣味の一環としても、様々な世界観の物語を書くようにしている。


よく取材の時やファンの方、後藤君に聞かれるのだが、私の作品が生まれる秘訣は何なのか?と。

普通は別の作家さんの本を読む、とか取材兼気分転換で遠出する、などと回答するんだろうと思う。


しかし私の場合、一つは愛用の音楽プレーヤーでアニソンを聴きながら作業することである。


普通は気が散って執筆に集中できないんじゃないかとよく言われるが、逆に私は音楽にノリながら書いた方がいろんなインスピレーションが浮かぶ。


今聴いているこのアニソンは”AKARI ”という人気のアニソン歌手。


歌は勿論の事、彼女は作曲編曲の仕事もしていて、毎回すごい名曲を創り出すのである。

彼女と私は、仕事内容は異なるものの、何かを創り上げるというアーティスト同士という点では共通しているのですぐ意気投合した。

互いに信頼し合っているからか、互いの作品や曲の感想を言い合ったり悩み相談にのってもらったりしている、コミュ障&口下手な私が唯一、声に出して気兼ねなく本音を言える親友であり、姉のような存在である。


また彼女は最近結婚して、声優の夫をもつ嫁のひとりである。

この二人の結婚に関しても、世間ではかなり話題となった。


この二人についても後々改めて紹介するとして、私のインスピレーションの元をもう一つを紹介しよう。


それは、夫斎藤悠樹のボイスを集めたCDである。


夫の出演したアニメやラジオなどから音声を切り取ってCDに集めた、その名も「悠樹’s コレクション」。

斎藤悠樹の笑った時、照れた時、ちょっとキレた時、少し半泣きになっている時などの声を収録しているものである。


これは編集のプロでもある、AKARI(燈姉)に作ってもらったものだ。


燈姉も私も声フェチなので、いろんな声優の声が収録されたコレクションCDを元から集めるのが趣味だったが、これは双方の夫には言えない2人だけの秘密なのである。


そしてオフの日に家に燈姉が遊びに来たとき、


「どう、詩乃?今回は中々、いい出来だと思うんだけど。いつもと違うソフトで編集してみたんだよ。すごく立体的でクリアに聞こえるだろ?」


私は真剣な顔で「最高です、ごちそうさまです」という顔で、興奮気味に力強くグッドしながらコクッと頷く。


そして燈姉はニカッと「そりゃ良かった」と微笑む。


「しかし、斎藤の声ってすごい透明感のある聴きやすい声だなって前々から思ってたけど、それでも斎藤悠樹って個性はちゃんとあって、尚且つそれを上手く生かしてるのが、ホントすげぇなって思う。どんな役にも溶け込みそうな声してるよなぁー。声フェチのひとりとしては、絶対ますます伸びてくと思ってる。あれは。斎藤っつー人間とはあまり私と合わんけど。声優としては尊敬してる。」


燈姉がこんなに言うのだから、きっとそうなるんだなぁ、私も楽しみだなと思ったと同時に「よくぞ言ってくれた!」と思い、共感する表情をする私。


「…………詩乃、そんないい表情できるんだからさぁ、斎藤の前でもすればいいのに。もったいないなー。」


「無、理…………。緊張…で、頭…………が、真っ白……………に、なる。それに、顔…が、引き、つる。それに未だに、あの人……と結婚した……なんて、信じられなくて、緊張…する。」


「気持ちは分からんでもないけどさぁ。まあ、あいつツンデレだし、本音は中々言わないだろうけどな。やっぱり好きなやつから笑顔向けられたり褒められたりしたら嬉しいんじゃねぇの?」


分かってはいるが、それができたのなら最初から苦労してない。


「前から思ってたけど、小説の中の詩乃と現実の詩乃って、すんごいギャップあるよなー。かなり。」


「そう……?私はそんなつもり…………ない、けど。」


「そんなことあるんだよ。てか、自覚なかったのかよ…………。まあ、詩乃はリアクションする時の表情は豊かで面白いと思う。」


「は」って何「は」って…………。褒めてる?と聞くと「褒めてる褒めてる」と少し笑いをこらえながら私の頭を撫でる。


「私の事はともかく…………、作曲、の調子は、どう………?」


「あぁ、それなぁ~。今度秋に放送開始するアニメのOP曲を担当することになったんだけど、今どういうフレーズにするか悩んでる所でさぁ。」


「へぇ…………。どんなアニメ、なの?」


「まだアニメ名は言えないんだけど、バトルものの漫画で。疾走感のある曲調にしたいなって考えてんだけどさ、詩乃の意見も聞いてみたくて。」


「私に……聞かなくても、おおよそ、ああしたいってイメージ、は、すでにできてるんじゃ、ないの…………?」


「まぁまぁそんなこと言わないで、意見を聞かせてくださいよぉ橘センセ~

先生の意見って結構鋭いから、参考になるんですよぉ。お願いです、ご教授を~~~」


という感じに私に抱きつき、顔をスリスリしてくる。しょうがないなあと思いながらも可愛いからと許してしまう自分もあれなのだけど。


という感じで家に来たときは、仕事の相談やおすすめの漫画やアニメの話(時々夫の愚痴話)をするのである。


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