第9話 ディナーショー
「君に翼をつけるのなら、どんなものがいい?」
彼の言葉に私は唸った。天使のような白いものをつけるほど、私は綺麗じゃない。外見ではなく中身の話だ。だからといって、皮を張り付け、爪のように先の尖った、悪魔の羽でもないだろう。私はそこまで堕ちてはいないはずだ。悪魔に失礼ということだ。
私はじっと考える。背中に集中して、肩甲骨のあたりがむずがゆい。
彼は黙ってこちらを見ていた。長いテーブルの先、真っ白なテーブルクロスの上に、七面鳥の丸焼きや、ビーフステーキ、シーザーサラダにティラミスと置いてある。
「どうぞ、食べて」
「はい」
私はティラミスを食べた。彼は手を付けない。私はそれでも、考え続けた。なかなかに難しい質問だったのだ。
骨格標本で見かける、コウモリの骨はなかなかに感動的だ。けれど、私に見合っているだろうか。そもそも、私に付ける羽など存在するのだろうか。飛ばないほうがいいのかもしれない。そうだ、そもそも飛ぶための羽という必要もないのだ。なぜなら、私は地面を這って、生きているのだから。だとすれば、ダチョウか、それともニワトリか。
「七面鳥、かもしれません」
私はこんがりと焼けた肉を見て言う。彼はにっこり笑った。
「もっと贅沢に言っていいんだよ」
「七面鳥に対して失礼かもしれませんが、私にはそれくらいがちょうどいいのだと思います」
「そうかい?じゃあ、たんとお食べ」
私は七面鳥を食べた。香辛料の効いた、おいしいお肉だった。
彼は相変わらず食べはしない。私ばかり食べて、代わりに私を丁寧にほめるのだ。リップサービスと分かっていながらも、どこかむずがゆい。背中がむずがゆいのと、同じような感覚だった。そうだ、リップサービスということは、彼は私を見ていないのではないか。彼は一切自分を語らない。私が聞かないだけかもしれないが、彼は言わないのだ。私は唸る。
彼は、私を見ていないのかもしれない。一瞬にして確信した。彼は、私を見てはいないのだ。何を見ているのか、わかりはしないが、私はそっと席を立つ。彼に近づいていくが、彼は咎めはしなかった。それがまた、不審へと変わる。じっと、彼を見た。座ったままの、彼の瞳を覗き込む。
綺麗な瞳だった。まるで、ガラス玉だ。青色に光る、ガラス玉だった。そうか。そうだったのか。彼は、空虚だ。私の前では、空虚なのだ。ぽろりと瞳が落ちる。カランと机の上ではねた。ぽろぽろと、すべてが剥がれ落ちていく。私は、悲しくて仕方なかったが、取り返しはつかない。
彼は骸骨になった。あぁ、私を見ていたと思っていた、目の前の彼は、空っぽだったのだ。
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