第40話:復讐するは我にあり

 翌朝、三人は葬魂の村への道のりを急いだ。メアが言うには、今日中にも村へたどり着けるらしい。


「あのう、エリルさん、僕に新しい武器ってもらえないですかね」

 エリルの袋を見ながら、僕はねだる。なんでもはいっていそうな袋だ。武器の一つや二つは入っているだろう。


「買ってやった短剣も、すぐに壊してしまうやつだからな。どうしたものかな」


「でも、新しく覚えた魔法も、戦闘には全然使えませんでしたから。武器がないと魔物を倒せません」


「そういえば、お前は短剣でかなりの数のゴブリンを倒していたな。ランクゼロでどうやったのか、気になるところではある」

 エリルが興味深そうに見つめてくる。あんまりじろじろと見られると照れる。


「そうだな、その時の戦い方を見せるっていうなら、武器の一つくらい渡してやろう」

 エリルが袋に手を入れ、引き出すと、その手には鞘に入った剣が握られていた。短剣よりも、ずっと立派で、長い剣だ。


 剣を受け取って鞘から引き抜くと、刀身がぎらりと光る。両刃の剣だった。両手で持った方が安定しそうだが、片手でもどうにか扱えそうな重さだった。


「ゴブリンって、ランクスリーくらいから相手にするやっかいな魔物ですけど、それをユウトさんが倒したんですか?」

 不思議そうに、しかしどこか興奮気味でメアがきいてくる。


「まあ、見てなって。次の魔物は僕に任せてよ」


「今度は壊すなよ」


「た、たぶん大丈夫です。硬い魔物とかが出てこなければ」


「まあ、タダでやるわけではないし、それはもうお前のもんだから、どうしようと自由だが」


「やっぱこれも借りですかね」


「これでちょうどドラゴン三百頭分の貸しだな」


「なんか前回よりめっちゃ増えてませんか」


「そりゃあ命の貸しに、利子がついてるからな」


「そこに利子がつくんですか!?」


「当然だろう。いまお前が空気を吸っているのも、命を救われたからだろう。ということは、それも、私のおかげということになる」

 冗談とも本気ともつかない表情でエリルは言う。


 これは、優しい顔をして貸しを作り、徐々に本性をあきらかにして搾取する、闇金悪徳業者のやり口そのものだ。


「魔物を退治したら、お礼はお支払いしますね」

 二人の様子を、楽しめに眺めていた、メアが言う。


「お礼もらえるの?」


「はい。もともと協会に依頼しようとしていましたから。村から預かったお金があります。ドラゴン三百頭分には遠く及びませんが……」


「いや、助かるよ。記念すべき初めての稼ぎになる」


「お金稼ぐの……はじめてなんですか?」

 驚いたようにメアが目を見開く。


「あ、いや、別に今までニートだったってわけじゃなくて……」

 しどろもどろになる。メアのことを信頼していないわけではないが、転生の事情を説明するのは、まだ早い気がした。


 僕があまりこの話題にふれられたくないことに気づいたのか、メアは素直に頷いた。


 そんなことを話しながら歩いていると、目の前に、新たな魔物が現れた。


「ビッグマッシュですね」

 メアが魔物を指差す。


 そう、僕を殺しかけた、あの魔物だ。勇者クラルクと並んで、僕にとっては因縁の相手だ。僕を殺しかけたのが、なんてこととない大きなキノコと、街最強の勇者だというのも、おかしな話だが。


「あいつは僕に任せてください!」

 自信満々に言う。もう、あんなのに遅れはとらない。


「キノコごときにそんなに張り切られてもな」

 エリルが呆れて言うが、気にしない。僕にとっては大事なリベンジマッチだ。


 ビッグマッシュに向かって駆け出す。距離が近づき、そのまん丸な目がこちらを向いているのがわかる。


「チェンジディレクトリ!」

 走りながら叫ぶ。次の瞬間、景色が変わり、目の前にビッグマッシュの背面があらわれる。奥には、驚いたようにこちらを見ているエリルとメアの姿も確認できた。


 剣を上段から振り下ろす。剣は切れ味鋭く、ビッグマッシュを真っ二つに切り裂いた。ぶぎゅ、と音をたてて魔物は消滅した。


「どうですか、見ましたか。僕だってやればできるんです!」

 追いついてきた二人に、誇らしげに言う。


「ユウトさんすごいです! 移動魔法だなんて。ランクワンで使える人をはじめて見ました」

 メアに褒められ、悪い気はしない。

 

「キノコごときに大げさだが……まあ確かに驚いた。これなら一緒に戦えそうだな。正直、役立たずだと思って、戦力に計算してはいなかったんだが」


「期待値低すぎません?」

 エリルの正直な評価を聞いて落胆する。しかし、これで少しは認めてくれたのだろうか。


 そこからは、三人で手分けして魔物を退治しながら、先へ進んだ。やがて、草原の先に、広大な森が見えてきた。


「葬魂の村は、あの森の中です」

 メアが先を指し示す。


「魔物が暴れているという割には、静かだね」


「森も広大ですし、魔物も、時々休んでいるようですから。落ち着いているうちに、村へ向かいましょう」


「村は魔法で隠されているんだよね?」


「私なら、見つけられます。このあたりで一番大きな集落です。魔物に襲われた集落の人たちも、みんなそこに逃げ込んで、協力して隠匿魔法を発動しています。でも、もう長くはもちません」

 メアが不安そうな表情を見せる。


 三人は、森へと踏み入り、さらに早足に奥へと進んでいった。

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