第21話:誰がために
「そのルート神より、シャインたちの方がよっぽど神様みたいだし、なんでもできちゃいそうだけどな」
「私たちはあくまで魂と世界を仲介するだけです。その世界の理に深く干渉することはできません」
シャインは申し訳なさそうに肩を落とす。
「そうか、それでこの世界に転生された俺に、やってほしいことがあるってことか。最初に言っていた、コンソール探し、ってのがそれか?」
「はい。昨晩お話しできなかった頼みごとというのも、まさにそのことなんです」
「コンソールってのはなんなんだ?」
「ルート神に接続するための媒体です。ルート神がこの世界と完全に断絶されることはありえません。どこかで、ルート神に繋がることができるはずなんです」
「しかし、どう探せばいい。全く見当がつかないぞ」
「私たちが見つけられないということは、この世界のユーザもたどり着いていない、未踏の地にあるはずです」
「もしかして……ダンジョンの最深部とか?」
「そうです! 私はそう考えています。魔界の奥地とか、深海の神殿とか、そういったところにある可能性もありますが」
「いや、それぜんぶ、難易度めっちゃ高くないか? まだ誰も行けてないところなんだろ?」
「そこをなんとかユウトさんのお力で……」
「僕はさっきまで底辺だった男だ! ひきこもりに宇宙飛行士になれってくらいの無茶振りだぞ、それは」
「ユウトさんならできます」
シャインがガッツポーズを作る。
「簡単に言うなよな……」
「でも放っておいたら、災害や魔物がどんどん増えていきますよ。基盤が乱れたら、その上にある世界も乱れます」
そう言われてしまうと、反論できない。この世界の存亡は、そのまま僕の生死に関わるのだ。
「約束はできないけどな。まぁ、考えておいてやるよ」
昨晩、自分のために生きようと決意したばかりだ。
それに正直なところ、世界を救えと言われても、僕の手には余る。自分を犠牲にして世界のために働けということか。誰かのために命を落とすようなことは、二度とごめんだ。
その手に世界の命運がかかっているなどと知れば、人々は僕に期待する。期待して、完璧を求めて、勝手に失望する。
そんなのは二度とごめんだ。僕が管理人であることは、絶対にこの世界の人々に知られてはならない。
思い悩みながら、藁の上に寝転んだ。まだ聞きたいことはあるが、さっきから頭痛が全く治る様子がない。アイテムをなにも持たない以上、休むしかないだろう。
あれ、これってもしかしてあの魔法の出番なのでは。深刻な痛みがあるわけではないし、あと一回くらい使っても問題はないだろう。
「スリープ!」
唱えると同時に、意識は薄れていった。
「おい兄ちゃん、起きろっ!」
すぐに、強い衝撃を頬に感じて目を覚ました。
ぼんやりとしたまま、どうにか目を開くと、目の前に宿屋の親父の顔があった。寝起きで至近距離で見て気持ちのいいものではない。
「な、なんでいつもビンタで起こすんですかぁ」
夢見もなく、目を覚ますまで一瞬に感じたが、すでに朝日が馬小屋に差し込んでいる。寝る前に悩まされていた頭痛は、幸いなことに治っていた。魔力が回復したのだろう。
「呼んでもぜんぜん起きないからだろ。ほら、朝飯だ」
親父は果実と水を置いて宿へ戻っていった。
これが毎朝恒例となるのは望むところではない。せっかく異世界に転生したのだ。もっとこう、ふわふわのベットで目覚めて、隣には薄着のエルフがいたりして……。
妄想を膨らませていると、メッセージ着信を知らせる音が鳴った。
『おはよう。今日も麗しき太陽が私たちのために顔を出したようだ。絶好の冒険日和。さあ旅立ちの時だ。一歩踏み出そう。新しい世界が君を待っている!』
うさんくさいメッセージは勇者のクラルクからのものだった。なんだ、あいつ文章までこのテンションなのか。地下ダンジョンに行くのに太陽も関係ないだろう。
僕がすっぽかすとでも思っているのか。いや、あの暑苦しい男とこれから一日中一緒だと考えると気が滅入る。本当にサボってしまおうか。
「おはよう!」
「う、うわぁ!」
突然の闖入者に驚き、声をあげる。クラルクが外から馬小屋をのぞき込み、白い歯を見せて笑っていた。
「ど、どうしてここに……」
「迎えに来たぞ親友よっ!」
「いや、親友になった覚えは……。それにこの場所は教えてないはずですが……」
「私は勇者だからな。不可能はないっ!」
「いや、普通にこわいんですけど……」
「さあ行こう、初めてのダンジョンが君を待っている!」
クラルクは自分のペースで強引に話を進める。
ここまできて断るわけにはいかず、果物を急いでたいらげ、水を飲み干した。
「しかし親友よ、少しにおうぞ。トロルとまでは言わないが、まるでゴブリンのようだ」
クラルクに言われ、服をかいでみると、確かに少し汗くさかった。ゴブリンは言い過ぎだと思うが。いや、ゴブリンの臭いをかいだことはないが。
宿の親父にお願いすると、シャワーを貸してもらえた。シャワーからお湯は出なかったが、冷たく凍えるほどではなかった。
この世界に来てから、元いた世界で着ていた、半袖のシャツ一枚で過ごせている。四季があるのかも分からないが、春の気候のようにも思える。
宿の親父から新しい服をもらう。ごわごわとした麻の生地だが、三日同じシャツを着続けるよりもましだ。金を気にしたが、親父の厚意で、無料で譲ってくれるとのことだった。
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