第70話 信頼

ランペルツォンがヒロをじっと見た。

ヒロは何か言われるのかと思い、焦って目を離した。


が、ランペルツォンの口から出たのは意外な言葉だった。


「お前を見くびっていたようだ。

 私は、部外者というものを信用していない。そう言ったな…」


「え、ええ。

 確かに手厳しいことを言われた記憶がありますね…」


「それには理由がある…」


ランペルツォンが宙を見て、目線を上に向けて思い出すように話した。


「昔、王国兵と傭兵ギルドの傭兵で、共にモンスター討伐をしたことがある。

 オーガの群れの討伐だった。

 オーガは巨躯で、ランクも高い魔物だ。

 手練れをそろえる都合上、傭兵ギルドと協力して頭数を確保したのだ」


ヒロは、ランペルツォンを再び見た。

ランペルツォンが話を続けた。


「私も当時は兵士の一人だった。

 隣国から移動してきたオーガの群れがマルコ村の方へ向かっている、そう調査隊から連絡を受け、討伐へ出たのだ」


ヒロは神妙な面持ちでランペルツォンの話を聞いている。


「いざオーガの群れと対峙した時、傭兵たちは一向に戦わなかった。

 おじけづいたのか?そう思ったが…違った。

 オーガは人間も食べる。オーガたちは、恐らく、移動によってかなり長い間何も食べていなかった。

 空腹のせいだろう。弱るどころか凶暴性は増していた。

 我々をを見るや否や、襲い掛かって来るほどに。

 我々王国兵士は勇敢に戦った。

 だが、凶暴なオーガに捕まり、すぐに口にほうばられるものも、残念ながらいた」


ヒロは悲惨な状況を想像し、眉をしかめた。

満月の夜にゾームに捕食された冒険者の姿が、頭によぎった。

ヒロは尋ねた。


「傭兵たちはどうして、攻撃をしなかったんです…?」


「ずっと攻撃をしなかったわけじゃない。

 ただ、奴らは、兵士を捕まえて食しているオーガにだけ、攻撃を仕掛けたんだ」


「部外者…傭兵たちが、兵士を利用した…

 安全にオーガが倒せるように…」


「その通りだ。

 オーガは人間を食べている時、隙ができる。

 傭兵たちは、兵士を利用し、兵士を見殺しにし、オーガを狩ったのだ。

 その証拠に、傭兵たちは兵士にオーガの手が迫っても、全く助けようとはしなかった。

 そんな戦い方では、オーガの移動は止められず、マルコ村の逃げ遅れた村人たちも犠牲になった」


ヒロは察して答える。


「傭兵たちが、わざとマルコ村までオーガを引き寄せたという可能性すらあったとお考えですね…」


ランペルツォンが答える。


「ああ。

 傭兵たちは、自分たちが安全にオーガを殺すためだけに、村人も、兵士も見殺しにした。

 結果的にオーガは全て討伐できたが…

 村人と兵士の犠牲は大きなものだった…。

 私は、なんとか生き延びることができたが、多くの同朋を一日で失った」


「そんなことが…

 それで、王国以外の人間…部外者を信用しないんですね…」


ランペルツォンが続ける。


「他にも、ギルドのような部外者は報酬の高い方に寝返ったり、裏切ることが何度かあった。

 私は部外者を信用しないと女神ファシュファルに誓ったのだ」


ヒロは、あんな女神に誓ってもなぁと思いつつも、ランペルツォンがヒロにきつく当たっていた理由を理解した。


「だが…

 お前は王国の100年後のことまで考えて決断を下そうとしていた…

 信じて良いかもしれないと、少し思えた」


とても控えめな言い方だが、ランペルツォンがヒロを信頼しようとしてくれている。

それだけで、ヒロは嬉しく思い、礼を口にした。


「ありがとうございます!」

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