第69話 ランペルツォン

その時、ドアの方で声がした。


「失礼」


開きっぱなしのドアの前に、ランペルツォンが立っていた。


「ドアが開きっぱなしで、盗み聞きするつもりではなかったのだが、外からあなたたちの会話が聞こえてしまった。

 失礼ながら、少し気になったので発言してもよいかな?」


ジューマンからすれば、ランペルツォンは顧客であり上司のようなものだ。

ここは王国直轄の冒険者ギルドなのだから。


「お、ランペルツォン殿!

 最近はよくギルドにいらっしゃいますねぇ。

 ご足労をかけます」


「私はゾーム討伐プロジェクトのメンバーだからな。当然だ」


ランペルツォンの口から、プロジェクトと言う言葉が出た。

ヒロは、なんだかプロジェクトという概念を認めてもらったようで、嬉しく思った。


ランペルツォンが話を続けた。


「部屋の外で聞いていたが、ゾームの討伐に、キラーマンティス討伐の要件を加えようとしているのか?」


ジューマンを見通すような目で、ランペルツォンが見ている。

ジューマンは、汗を拭きつつ答えた。


「え、ええ…

 そのほうが効率的かと思いまして…」


「王国としては、ゾーム討伐とキラーマンティス討伐には、別の依頼料を用意しているはずだ。

 一緒にして、費用はどうするつもりなのだ?

 ゾーム討伐に上乗せするのか?

 それに、ゾーム討伐は急務だ。

 一方でキラーマンティス討伐は猶予がある。

 それを一緒にするのか?」


「え、いや…あの…

 ヒロくん、どうなんだい?」


何も考えてねぇな、コイツは。

ヒロは思った。

ヒロは話を振られたので、答える。


「一緒にしてしまう場合は、費用も変わりますしゾーム討伐のスケジュールも変わります。

 できなくはないでしょうし、メリットとしては、個別にプロジェクトを立ち上げるよりも同じ人員を使い合えるので、費用がさがるかもしれません。

 が、元々のゾーム討伐までの期間が延びる可能性を考えると、別にしておいた方がいいと個人的には思います」


ランペルツォンが、ヒロの話にうなずいた。


「私も、ヒロの言う通り分けておいた方が良いと考える。

 ジューマン殿の意見は?」


ジューマンはひきつった薄ら笑いを浮かべながら、答える。

汗が尋常じゃない。


「ランペルツォン殿がそうおっしゃるなら、そうしましょう!

 それがベストですよぉ!」


そういって、ジューマンは部屋からそそくさと出ていった。


部屋にはヒロとランペルツォンが残された。


「ランペルツォンさん、助けてくださり、ありがとうございます。

 正直、困っていました」


「たまたま聞こえたのでな…。

 このプロジェクトを阻害させるわけにはいかない」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る