第36話 チームでの役割

こんなもん、プロジェクトマネージャーの仕事じゃないぞ!

ヒロはゾームの目の前でそう思った。


作戦は、ヒロがおとりになるということだった。


知能が高いモンスターの場合、強そうな相手であれば仲間を呼ぶ。

できるだけ、弱い人間がおとりになることが、一体だけをゾームの巣と思われる洞窟から引き離す成功率を上げる。


その弱い人間は、明らかにヒロである。

もし仲間を呼ばれたなら、撤退するという手はずだ。


そうして、ヒロはゾームの前に一人で立たされた。

ゾームは夜行性で暗視が効くのだろう。

ヒロを、すぐに見つけた。


ヒロは、ゾームと目が合った。

蜘蛛の目と、人間の体に付いた目、両方と。


森でライニャスやキラーマンティスに襲われたときに続き、死と隣り合わせという恐怖。

だが、ヒロはこのパーティで自分しかできない役割なのだから仕方ないと考え、正直嫌だが受け入れた。


チームで活動するメリットは、それぞれが各自の専門性を活かすことで相乗効果を得ることだ。

ヒロにはヒロの、一般人であるという専門性が、このパーティーにおいてはあるのだ。プロジェクトマネジメントは関係ないが。


「うおー!」


ヒロは、ゾームに背を向けて逃げた。

ヒロに下された指示は、ゾームに自分を見つけさせ、洞窟と逆方向に逃げること、である。

そうして、ヒロを追ってくれれば洞窟から遠ざけることができる。


後ろを振り返ると、ゾームがすごい勢いで追ってきていた。

速い。すぐに追いつかれそうだ。

蜘蛛の頭部分が大きく横に割れた。

とんでもない大きさの口、のようなものだ。

これで、村の人々を捕食したのか。


ビュッ!

何か音が聞こえた。

糸がヒロの横を通り過ぎた。


サレナに言われたが、蜘蛛型のモンスターは糸を吐き出すことが多いという。

彼女の予想どおり、ゾームも糸を吐くということだ。

絡め取られると、動けなくなる。

だから、少しでも止まれば狙い撃ちされる。

ヒロはジグザグに走り続けていたこともあり、糸を逃れた。

とは言え、こんな攻撃を避け続けられるのか。


死ぬ。


また、森で味わった死への恐怖。

本当にあの冒険者たちは助けてくれるのか?

いや、そんなこと考えてる場合じゃない。

もっと全力で走らないと追いつかれる。


頭にいろいろなことがよぎっている最中、体が軽くなった。

足が速くなり、移動速度が上がった。

サレナが予定通り、ヒロにスピードアップの魔法を唱えてくれたのだろう。


「でも、こんなギリギリでなく、もっと早くに使って欲しかった…」


ヒロはぼやきつつ、全力で逃げ続けた。


しばらく走り、ヒロの体力も限界を迎えつつあった。


「もうだめ、もうだめ!死ぬ!」


ヒロは叫んだ。


その時、後ろのゾームの鳴き声のようなものが聞こえた。

金切声。

ヒロは倒れ込みながら後ろを見た。


ゾームがしびれるように痙攣している。

サレナが横から現れた。


「ヒロ、よく頑張ったわ。

 もう十分、洞窟から離れた。

 仕掛けた痺れトラップにうまくかかった!ナイスよ」


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