第37話 現実的な要件を定義すべし

メグが同じく現れ、魔法を唱える。


「ファイアボール!」


火の球がゾームへ飛んでいき、ぶつかってはじけた。

だが、ゾームに当たる直前ではじけたようだ。

同時に、ゾームが紫色の薄い光に包まれている。


「バリア!?魔法、効いてないかも」


メグが言い放った。

続けて、メグは魔法を放つ。

氷の魔法、雷の魔法、風の魔法。

しかし、どれもバリアに阻まれてダメージを与えられていなさそうだ。


「兄さん…レン兄さんがよく使ってたバリアの魔法に似てる。

 下位の魔法は、たぶん効かない」


メグが杖を撫でながら言った。

サレナが叫ぶ。


「トラップがそろそろ解けるわ!」


「今のうちに機動力を削ぐ!」


ジュドーが叫ぶとともに、キラーマンティスを倒した時の技で、ゾームの足に切りかかる。


「炎龍斬!」


足の半分ほどを切ったところで、剣が止まった。


「硬い!一発じゃ切れないな」


ジュドーは剣を引き抜き、ゾームと距離を取った。

ゾームのしびれが解かれ、攻撃態勢に転じたからだ。


「こうなりゃ、最強の技で…」


ジュドーはゾームの吐き出す糸を、剣で薙ぎ払いつつ、腰を落として構えた。

メグも、続けて言う。


「私も、得意な雷の上級魔法を」


だが、ヒロが二人を制した。


「ちょっと待ってください!

 その技や魔法は、魔道具で再現できるものなんですか!?」


その質問に、サレナの後ろに構えているマーテルが答える。


「まぁ、レベルが高すぎて無理でしょうね。

 できたとしても費用がかかりすぎるかと」


「ならば、ダメです、ジュドーさん!メグさん!

 その技で倒しても、ゾームの倒し方が明確にできません!」


「倒し方って、魔法で一撃、じゃだめなの?」


メグがヒロに不思議そうに尋ねる。


「ダメです!

 せめて、魔道具で代用できるような方法を組み合わせて倒さないと、ゾームを倒す兵器を作ることができません!」


ヒロはジュドーを制した。

このプロジェクトの要件定義とも言える、”ゾームの調査”においては、兵器を使って安定的にゾームが倒せる状態にするために必要なものが何であるかを確認しなければならない。


ヒロの元の世界のプロジェクトを思い出す。

多くのプロジェクトで、予算や制限がある。

それらを無視した要件を定義しても、実現できないことを実現しようとするプロジェクトになるだけだ。

例えば、どうあがいても半年かかることを三ヶ月で実現しようとしたり、明らかに想定した費用では実現できない、夢を盛り込んだ要件を作ったりしてしまう。


前提条件を元に、現実的な要件を定義しなければ、プロジェクトは頓挫したり、追加でとんでもない額が必要になったりするのだ。


ジュドーやメグはとてもレベルの高い冒険者だ。

彼らの全力の魔法や技をもってすれば、ゾームも倒せるかもしれない。

だが、ゾームが襲撃してくるたびに、そんな強い冒険者に頼るというのは限界がある。


彼らに負担がかかりすぎるし、何らかの事情で王都シュテールを離れれば、終わりだ。


だからこそ、倒す方法を兵器という誰でも使えるもので実現しなければならない。

その兵器に必要な要件を見極めるには、もっと着実な討伐方法を検討する必要があるのだ。


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