第34話 天才魔導士
サムソン湿地帯。
シュテリア王国内で3番目に大きい湿地帯である。
ヒロは湿地帯というものに初めて足を踏み入れる。
草のような土のような、自然のにおいが漂う。
湿地帯の入り口は草木の背は低く、浅い水たまりがちらほらある状況で、比較的見通しが良く、遠くまで見える。
だが、湿地帯の奥へ足を踏み入れると、草木は生い茂り、とたんに見通しが悪くなった。
足跡は湿地帯の奥へ続いているということで、モンスターが身を潜めているとしたら、木々の生い茂るゾーンだとパーティー一行は考えた。
「ここからは、むやみに足を踏み入れると危険ね。
私の遠視の魔法でも、見通しが悪くて良く見えないわ。
メグちゃん、飛翔の魔法、使える?」
サレナがメグに尋ねた。
「”フライ”は使える。
飛んで、上から見てくる」
そう言うと、メグは何やら呪文を唱えた後、宙にふわっと浮いた。
こちらへアイコンタクトを取ったのち、メグは空高く舞い上がり、湿地帯の奥側の方面へ飛んで行った。
遠ざかるメグを眺めながら、サレナがジュドーへ話しかける。
「メグちゃん、すごいわね。
あの若さで複数の属性魔法もつかえて、調査に使える魔法もいくつか覚えてるなんて。
初めて一緒にパーティーを組んだけど、落ち着いてるし、頼りになるわね」
「ああ、魔導士の中では100年に一人の天才とか言われているからな。
回復魔法は使えないみたいだが、相当な数の魔法をすでに覚えているよ」
ヒロは思った。
メグはそんなすごかったのか、と。
さっき「少し、悔しい」と言われたのには、彼女の魔導士としてのプライドがあったのかもしれない。
こんな、謎のおっさんがメグが使えない大魔法を使っていたのを見ると、何か出てくる感情があるのだろう。
そこに、マーテルが口を挟んだ。
「あれだけ魔法が使えるなら、魔導士のあこがれ、王宮魔導士も夢じゃないでしょうにね。
兄のために健気に、こんな危険な冒険者業に勤しむなんて、私には考えられませんよ」
マーテルにジュドーが返す。
「それほど、未練があるんだろ。
目の前で家族を殺されたんだ、そりゃあ真相を知りたくもなるだろ」
メグは両親が殺されてから、5年もの間、戦い続けているのだろう。
両親の仇であるエルザスを探すという目的のために。
しばらくそんな話をしているうちに、メグが戻ってきた。
静かに着地した後、メグは淡々と話す。
「このあたりを上から見てみたけど、リザードの他にモンスターの姿は見えなかった。
ただ、洞窟があった。
隠れられそうな場所としては、そこぐらい。
それ以外なら、もっと遠くかも」
リザードはこの湿地帯では珍しくもないトカゲのモンスターだ。
サレナが返答する。
「なるほど…ありがとう。
洞窟の中を探索するのは、あまりにも危険ね。
となると…洞窟の近くにモンスターがいないことを確かめたあと、洞窟が見える位置でキャンプを張って様子を見ましょうか。
満月の夜に活発化するとは言え、夜行性なら満月でない今夜にも何か動きがあるかもしれないわ」
一行は湿地帯の草木が生い茂る場所へ足を踏み入れ、洞窟を目指した。
マーテルの持つ魔道具に、敵意のあるモンスターがある一定範囲に入って来ると震えて知らせてくれるかまぼこ板のようなものがある。
それを使って、周りにモンスターがいないことを確かめた後、洞窟がギリギリ見える位置でキャンプを張ることにした。
「ヒロ、疲れただろ。
俺たちが見張っているから、お前はテントで休んでていいぞ」
そうジュドーが声をかけてくれた。
ヒロは、みんなに悪いなぁとは思いながらも、疲れ果てていたのでテントの中で倒れ込んだ。
こんな場所でも、疲れていれば寝ることができるようだ。
そうして、日は落ち、夜になった。
その後すぐに、ゾームと対面することになるのだった。
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