第32話 エルザス

メグは未だ無表情だったが、その目に少し怒りがこもったのをヒロを感じた。

ジュドーが頭に指を当て、思い出すような仕草をしながら言う。


「エルザスって言うと、五年ぐらい前に、王都での連続殺人で指名手配された男の事か?

 目撃者の話から、コロシアムで格闘家やってたエルザスが犯人ってなった事件だよな」


「そう。

 その男」


ヒロが話に入って聞いた。


「コロシアム…の格闘家?」


ジュドーがヒロにコロシアムについて教える。


「ああ、ヒロは知らないのか。

 王都シュテールじゃあ、賭け格闘大会があってな。

 それがコロシアムってう格闘場で開催されてるんだ。

 その格闘大会に出る選手として、エルザスって男がいたんだ」


エンターテイメントとしての賭け格闘大会。

元の世界での競馬のような感覚なのかもしれない。

ヒロはそう思った。

そこに選手として出ていた格闘家エルザスが殺人を犯した、ということらしい。


メグが話す。


「五年前に、エルザスは私の両親を殺して、逃げた。

 まだ捕まってない。

 私はその時、怖くて棚に隠れてた。

 兄さんはエルザスに連れてかれて、行方しれずになった」


ヒロは、押し黙った。

メグは、目の前で両親を殺害されたということだ。

なんと言葉を返せばよいか、わからなかった。


ジュドーが静かにメグへ問いかけた。


「復讐したいのか?」


メグがうなずいた。


「復讐したい。

 それと、兄さんがどうなったかも知りたい」


今度はヒロが聞いた。


「お兄さんがいたんですね」


「いた。

 私と同じで、魔法が得意だった。

 特に防御型の魔法が」


メグは、少し得意そうに言った。

お兄さんのことが、誇りである。

そんな印象をヒロは受けた。


「お兄さんのこと、好きなんですね」


「…そう。

 だから、殺人鬼のエルザスを探して兄さんをどうしたか聞きたい。

 冒険者をするのが、一番情報が集まりやすいと思って、冒険者をしてる」


森でヒロに初めてあった時、生活費のために依頼を受けたと言っていたが、本当は復讐のためだったということだ。


ヒロは、想像以上にメグが過酷な経験をしていたことに驚いた。

同時に、ヒロの世界では高校生ぐらいであろうに、それでも魔導士としてまっとうに生きているメグに尊敬の念を抱いた。

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