第26話 プロジェクトは地味な活動の積み重ねである

長い打ち合わせであったため、時間は夜遅くなった。

ギルドにはレインとヒロのみとなっていた。

ギルドの戸締りをしながら、レインがヒロに話しかけた。


「やっぱり、私はプロジェクトには入れないんですね…」


体制表に自分の名前がなかったレインは、少し悲しそうに言った。


「もし、レインさんがよろしければ、プロジェクトマネジメントの補佐をしてもらえませんか?

 私は、きっと忙しくなります。

 その時に、手足として動いてもらえる人が、正直言うと欲しいのです。

 承認が取れたら、商工会や建設ギルドへ、プロジェクト協力を依頼しなけばいけません。

 私みたいな部外者より、顔が広いレインさんの方がきっと交渉はうまく行きます」


「補佐…ですか?

 でも、さっき曖昧な立場の人はいらないって…」


「誰の指示系統にもない、曖昧な人を置くことは邪魔にしかなりません。

 ですが、私の指示の元に行動いただく、という立場の人は、曖昧にはなりません。

 なにより、私はレインさんが私の知識を吸収してくれそうな気がするんです」


「ヒロさんの知識は、なんだか初めて知ったものばかりで面白いですから!

 このプロジェクトに、参加したいです!」


「よろしくお願いしますね」


「ところで、今日の話し合いを見ていて思ったんですが、ヒロさんって、とにかく紙に書きますよね。面倒じゃないんですか?」


ヒロは確かに、何でも書く。

ヒロの手元には、この会議中に書いた大量のメモがあった。


「面倒と言えば、面倒ですが、慣れました。

 人間、言葉で言ったことは覚えていないものです。

 だから、紙に文字で書いておかないと、なぜこうしたのか?何を決めたのか?次に何をするのか?が曖昧になるんです。

 特にプロジェクトはチームメンバーが協働します。

 メンバー間の認識を確実に合わせておくためにも、文字で残しておくことが大事なんですよ」


元の世界では、よくパソコンでメモをしながら、メンバーと打ち合わせをしていた。

文字で共通の認識にしておかないと、言った、言わないで後々モメるからだ。

チームメンバーにうまく動いてもらうには、指示や決まったことを言語化して明文化すること。

これも、プロジェクトマネジメントとして必要なものとヒロは考えている。


「なんだか、プロジェクトってとても面倒なものなんですね」


レインが言葉を返した。


「そうかもしれませんね。

 プロジェクトはそれぞれの目的によってとるべき行動は全く異なります。

 なので、正解がないんです。

 ただ、少しでも成功率を上げる知識や行動、それがプロジェクトマネジメントなんですよ」


「そんなに大変なものなのに、なんだか、ヒロさんは生き生きしていますね。

 プロジェクトマネジメントが、好きなんですね」


「ははは…。そうかもしれません」

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